研究課題
必須微量元素である亜鉛の恒常性は亜鉛トランスポーターによって維持されており、亜鉛トランスポーターは二つのファミリーからなる。細胞質へ亜鉛を輸送するZIPファミリーと細胞質より亜鉛を排出するZnTファミリーである。ZIP及びZnTトランスポーターは、哺乳類においては20種ほどが同定され、それぞれ特徴的な発現様式を示している。亜鉛トランスポーターは単に亜鉛の流出入を媒介するのみならず、亜鉛の輸送を介して様々なシグナル伝達制御に関与することが示されつつある。しかしながら、個々の亜鉛トランスポーターの生物学的機能については未だ十分には解明されていない。本研究の目的は、腸陰窩に発現する亜鉛トランスポーターZIP7の腸管上皮細胞における役割を明らかとする事である。前年度までに、タモキシフェン誘導性腸上皮細胞特異的ZIP7欠損マウスを樹立し解析に着手した。その結果、腸上皮におけるZIP7の欠損は腸上皮恒常性を著しく損ない、腸陰窩に存在する腸上皮幹細胞と増殖細胞が消失する事を見出した。腸陰窩には、腸管上皮幹細胞、幹細胞から生み出される増殖性のTA細胞、パネート細胞が存在する。電子顕微鏡による解析の結果、ZIP7欠損により約半数において細胞内小器官の変性や脱顆粒を起こしている様子が観察され、ZIP7はパネート細胞の維持においても機能していることが示唆された。更に、ZIP7による腸上皮恒常性維持の分子機構を探るため、腸上皮幹細胞レポーターマウスを用いての解析により、ZIP7欠損により増殖性のTA細胞において小胞体ストレス応答とアポトーシス誘導に関わる遺伝子群の発現の亢進が特に顕著である事が見出された。ZIP7は増殖性のTA細胞の小胞体ストレスの解消に関わり、腸上皮恒常性の維持を担っていることが考えられた。
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