研究課題/領域番号 |
15K19321
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
玉田 宏美 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (60712817)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 腸管神経 / 神経再生 / c-Kit |
研究実績の概要 |
塩化ベンザルコニウムを用いた腸管神経損傷モデルを用い、c-Kit変異マウスにおいて、異所性新生神経細胞が顕著に認められることに注目し、研究を進めた。本年度は、野生型、c-Kit変異マウスそれぞれにおける新生神経細胞数について詳細な比較検討を加えた他、これら新生神経細胞の組織学的な特徴の解明、in vivoでの再生再現実験を行った。 具体的には、神経損傷後のタイムコースを追い、異所性の新生神経細胞の発現数を定量化したところ、c-Kit変異マウスにおける新生神経細胞の出現が上昇する傾向が2週間目から見られはじめ、3週間後においては、野生型マウスとの間に有意差が見られることを示した。 また、損傷後3週間において、種々の神経マーカー、染色法で新生神経細胞を標識したところ、通常の縦走筋層に投射する神経サブタイプの全てが同定できた。この時点における新生神経細胞は、グリア細胞のマーカー等では標識されなかった。また、電子顕微鏡観察において、異所性新生神経細胞は、通常の神経節と同様の微細構造を呈する神経節を形成していることも明らかにした。 in vivoでの実験については、既に消化管間質腫瘍(GIST)の治療薬として用いられ、c-Kit activityのinhibitorであるImatinibの投与実験を行った。神経損傷のみでは異所性の新生神経細胞の出現があまり見られない野生型に対し、損傷後にImatinibを経口投与した野生型では、有意に異所性神経細胞の新生が促進されることを示した。 本実施内容は、腸管神経再生メカニズムとc-Kit activityという、これまでに注目されていなかった関連を理解する上で極めて重要な基本情報であり、また、臨床応用への可能性を強く示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的のいずれの項目に対しても、結論に至るための重要な手がかりを得ることができている。さらに、臨床へつなげることを期待し次年度に計画していた、野生型マウスを用いたin vivoでの再生促進実験について、本年度に実施したところ、有意な結果を得ることができた。このことは、本研究の非常に大きな目的の1つをクリアできたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
腸管神経系の神経再生研究では、神経幹細胞に対するspecificなマーカーが明らかでないという点が問題点として挙げられる。前駆細胞の同定の問題を打開するため、本年度得られた結果および予備実験の結果も受け、遺伝子改変動物の使用も積極的に検討し、研究計画を進める。このことは、遊走経路の同定にも非常に大きな手掛かりになると考えられる。また、c-Kit発現細胞の関与に関しては、標的とする細胞を単離することで、生化学的アプローチの展開を予定している。 本年度、臨床薬を用いたin vivoでの実験を遂行することができたが、さらに、メカニズムの詳細が明らかになった際には、よりクリティカルなアプローチを試みる。
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