研究課題/領域番号 |
15K19325
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
重川 稔 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00625436)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 膵発癌マウス |
研究実績の概要 |
膵癌は早期発見が難しく、予後不良な癌の1つである。癌細胞ではポルフィリン合成経路の代謝異常が認められ、ポルフィリン経路で代謝されるアミノレブリン酸(5-ALA)の負荷により中間代謝物であるプロトポルフィリンⅨ(PpⅨ)が蓄積する。しかし5-ALA投与後の膵癌におけるPpⅨ集積動態と悪性度などの生物学的特徴や抗癌剤感受性との関連について報告はない。また、前癌病変であるPanINsにおけるPpⅨの動態についても詳細な検討はなされていない。これまでの報告から膵特異的Kras遺伝子変異マウスではPanINsから膵発癌を認めることが示されており、私は膵特異的にCre recombinaseを発現するマウスとしてElastase1-Creマウスを使用して膵発癌モデルマウスの作製を行った。Elastase1-CreマウスのCre recombinase発現効率は全膵の1-2%程度であることが確認されていたため、KrasLSL-G12D/+-マウス、Trp53flox/floxマウス、Elastase1Creマウスを交配させ、Kras遺伝子変異・p53遺伝子欠損を伴う癌部とそれぞれの変異・欠損を伴わない正常膵の対比が可能な膵発癌モデルマウスを作製した。同発癌マウスは3か月齢で腫瘤形成を認め、前癌病変だけではなく組織学的に膵癌も含まれることを確認した。また、ROSA26reporterマウスを用いて腫瘍部、正常部でのCre recombinaseの発現を検討し、腫瘍部においてのみCre recombinaseが発現していることを確認した。次年度は、様々な月齢のKrasLSL-G12D/+- Trp53flox/flox Elastase1Creマウスに5-ALAを投与し、凍結膵組織検体を用いたPpIX発現の評価や尿、血液中のポルフィリン合成経路中間代謝物の解析を進めていく方針である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵発癌モデルマウスとしてKrasLSL-G12D/+-Pdx1Cre-Bcl-xLTgマウスを用いた検討において、4か月齢で前癌病変に加えて膵癌形成を確認した。形態的に正常膵腺房細胞と考えられる領域は20%程度であったが、同非腫瘍部にもKras変異が導入され、Bcl-xLが強制発現している点が、本マウスの問題点として考えられた。当研究室で飼育されているElastase1-Creマウスは、Cre recombinase発現効率が全膵の1-2%程度であることが確認されていたため、膵発癌目的にElastase1-CreマウスとKrasLSL-G12D/+-マウスを交配させ、さらに腫瘍形成を促進するためにTrp53flox/floxマウスを交配させることで、Kras遺伝子変異・p53遺伝子欠損を伴う癌部とそれぞれの遺伝子変異・欠損を伴わない正常膵の対比が可能な膵発癌モデルマウスの作製を試みた。同発癌マウスは3か月齢で腫瘤形成を認め、前癌病変だけではなく組織学的に膵癌も含まれることを確認した。また、ROSA26reporterマウスと交配させCre recombinase発現について検討したところ、腫瘍部でX-gal染色が陽性となり、非腫瘍部でX-gal染色が陰性となることが確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に作成したKrasLSL-G12D/+- Trp53flox/flox Elastase1Creマウスは、遺伝子変異・欠損を伴う腫瘍部(前癌病変および癌部)と遺伝子変異を伴わない正常腺房細胞を一個体内に有したマウスであり、よりヒト膵癌を模倣した膵発癌モデルマウスと考えられ、本研究課題の検討に適した動物モデルである。また、3ヶ月齢から発癌が確認されることから、比較的短期間で癌部、非癌部の検討を行うことが可能である。次年度は、様々な月齢のKrasLSL-G12D/+- Trp53flox/flox Elastase1Creマウスに5-ALAを投与することで、腫瘍部および非腫瘍部、血液、尿などのポルフィリン合成経路中間代謝物の解析を進めていく方針である。
|