研究実績の概要 |
本研究の目的は、ケトン体(主にβヒドロキシ酪酸)が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態進行へ与える影響を明らかにすることである。NAFLDではインスリン抵抗性が認められ、小胞体ストレスがその一因となっていると考えられている。平成27-29年度中に行った研究により、in vitroおよびin vivoの実験でβヒドロキシ酪酸は肝細胞における小胞体ストレスを抑制し、アポトーシスも抑制することを明らかにした。そのメカニズムを明らかにするために行った実験では、小胞体ストレスと糖脂質代謝に関与するサーチュイン1遺伝子の発現量および活性は、βヒドロキシ酪酸によって影響を受けないことがわかった。平成30年度中は、肝細胞内のβヒドロキシ酪酸産生を人工的に操作することで小胞体ストレスを制御できるかどうかを検討した。具体的には、ヒト肝臓由来細胞株であるHepG2細胞をPPARαのリガンドであるフェノフィブラート(0-100 μM)で処理してβヒドロキシ酪酸の産生を促進したところ、小胞体ストレスは抑制された。一方、HMG-CoA lyaseをsiRNAでノックダウンしてβヒドロキシ酪酸の産生を抑制したところ、小胞体ストレスは促進された。以上の解析により、肝細胞におけるβヒドロキシ酪酸産生を薬理学的および遺伝子学的に操作することにより、小胞体ストレスを制御できることがわかった。これらの研究成果は、英文誌に掲載された(Archives of Biochemistry and Biophysics 663, 220-227, 2019)。
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