研究実績の概要 |
生体内における脂肪組織の位置付けは,単に「エネルギーの貯蔵庫」としてだけでなく,様々な器官と直接的ないしは間接的な相互作用を有する重要な「代謝調節ポイント」であることが明らかになってきた.本検討では,膵癌組織と脂肪組織における局所での相互作用について明らかにする。3T3-L1細胞をadipocyteに分化誘導させ,ヒト膵癌細胞(PANC-1)と共培養を行ったところ,脂肪滴(トリグリセリド)減少とともにFABP4,PPARγ,adiponectinなどの脂肪細胞マーカーの発現低下が認められた.さらにFSP-1などの繊維芽細胞マーカーの発現上昇が認められ,細胞内エネルギー代謝経路の変化が確認された.この形質転化を認めたadipocyte(以下cancer-associated adipocyte: CAA)のconditioned medium(CM)を用いて,ヒト膵癌細胞株(PANC-1, MIA PaCa-2)を培養したところ,normal mediumおよびadipocyte-CMに比べ膵癌細胞株の浸潤能,遊走能を有意に上昇させた.また網羅的遺伝子発現解析では,CAA-CMを用いて培養を行ったPANC-1において遺伝子Xが高発現していることが見出されており(fold change 78.5倍, p<0.001, vs. control),western blottingおよびqPCRによる検討では,同遺伝子の制御を受けるmatrix metalloproteinase(MMP-2,3,9,13)やG-CSFなどの発現上昇が起こり,転移・浸潤能が促進されている事が示された.さらに,膵外科切除標本を用いた検討では,正常後腹膜脂肪組織に比べ腫瘍浸潤を認める脂肪組織において脂肪細胞径の有意な縮小を認め、同部位にはFSP-1の発現亢進を来す脂肪細胞が確認された。
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