本研究では、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)患者を対象に、小腸における飽和脂肪酸吸収動態と脂肪酸吸収関連蛋白の細胞分子学的評価を行うことで、以下の3つの事項を明らかにした。 (1) 申請者らが先行研究により確立した小腸飽和脂肪酸吸収能の評価法を用い、NASH患者の小腸粘膜における飽和脂肪酸の吸収動態を評価した。その結果、同じ脂質摂取量でもNASH患者のほうが健常者よりその吸収量が有意に多かった。 (2)(1)が起こる機序の解明のため、小腸生検組織を用いて脂肪酸吸収関連蛋白の分子細胞学的評価を行った結果、小胞体におけるカイロミクロン合成関連分子であるMTTP (Microsomal triglyceride transfer protein)と粘膜内血管および絨毛上皮における脂肪酸の能動的取り込みに関与する受容体glycosylated CD36の発現が、NASH患者において健常群より有意に増加していた。 (3)得られた知見とNASH肝組織、臨床データとの関連を検索したところ。NASH患者の飽和脂肪酸吸収量が、肝臓の線維化とインスリン抵抗性に関与する臨床データと正の相関がみられた。これらは、肝硬変、肝発がんに強く関与する項目であり、NASHでは食事からの飽和脂肪酸の吸収をどう抑えるかが重要で、小腸粘膜におけるMTTPおよびglycosylated CD36がNASHの治療標的となる可能性を見出した。 得られた研究成果を、第67回米国肝臓学会で研究発表を行い、「Upregulated absorption of dietary palmitic acids with changes in intestinal transporters in non-alcoholic steatohepatitis (NASH).」として Journal of Gastroenterology 2017 Jan 6. doi: 10.1007/s00535-016-1298-6.に論文発表した。
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