研究課題/領域番号 |
15K19336
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
吉田 理 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (70746809)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝線維化 / 肝星細胞 / 細胞外ATP / CD39 |
研究実績の概要 |
慢性炎症により線維化した肝臓は、肝癌の母地となるため、線維化肝に対する抗線維化療法が必要であるが、治療法は確立していない。肝の線維化には肝免疫担当細胞、肝星細胞が関与する。ATPは細胞内に存在するエネルギー源だが、細胞障害により細胞外に放出されたATPは免疫担当細胞を活性化し、炎症の形成・維持に関与する。しかし、細胞外ATPの肝星細胞に対する影響は不明である。CD39は細胞外ATP分解酵素で、炎症局所にて細胞外ATPを分解、アデノシンに変換することで炎症を鎮静化する。 本研究では、肝星細胞に発現したCD39が細胞外ATPを介した肝の線維化を抑制することを明らかにし、CD39を用いた肝線維化の治療法を開発することを目的とする。 平成27年度は、マウスの肝星細胞分離と線維化モデルマウスの作成を行う。CD39ノックアウトマウスを入手し、CD39ノックアウトマウスの繁殖を行う。ヒトの実験では肝星細胞株を用いてin vitroの実験にて、CD39の発現、ATPの分解、ATPによる星細胞の活性化を検討する。 平成28年度はCD39ノックアウトマウスに肝線維化を誘導し、肝線維化におけるCD39の役割について検討する。また、可溶性CD39を投与し、CD39の治療薬としての可能性について模索する。ヒト肝硬変患者組織免疫染色にて、CD39の発現、肝星細胞の活性化を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト肝星細胞株を2種類入手し、ヒト肝星細胞を用いたin vitroの実験を開始した。ヒト肝星細胞株にATP受容体が発現し、肝星細胞ををATPにて刺激すると、肝星細胞は活性化し、コラーゲンの産生が増加することを確認した。また、肝星細胞が細胞外ATPを分解することを明らかにした。現在、CD39の発現をRT-PCR、ウエスタンブロッティングと免疫蛍光染色にて確認中である。 マウスの肝星細胞分離の手法を大阪市立大学にて学び、マウス肝星細胞の分離法を確立した。現在、マウス肝星細胞のATPによる活性化、ATP受容体の発現、CD39の発現を検討中である。in vivoの実験では、四塩化炭素投与による肝硬変マウスの作成に成功した。現在、肝硬変マウスの肝星細胞機能とCD39の発現状況について検討中である。また、可溶性CD39による治療効果の検討を開始している。 このように、ヒトと野生型マウスの実験についてはおおむね順調に進行している。しかしながら、共同研究者のハーバード大学においてCD39ノックアウトマウスの交配に問題が生じており、CD39ノックアウトマウスの入手が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト肝星細胞株を用いたin vitroの実験では、CD39、ATP受容体の遺伝子発現を低下させ、ATP刺激に対するコラーゲン産生についての検討を行う。また、ATPによる肝星細胞の活性化を、可溶性CD39もしくはATP受容体阻害剤により阻害できるかを検討する。 マウスの実験では、四塩化炭素による肝硬変マウスの硬変肝におけるCD39の発現、ATP受容体の発現、肝星細胞活性化の有無についての検討を行う。さらに、硬変肝より肝星細胞を分離し、その機能を検討する。 また、CD39ノックアウトマウスの入手を急ぎ、交配を開始する。さらに、細胞外ATPの認識に関わる受容体のノックアウトマウスを入手する。これらのノックアウトマウスに四塩化炭素を投与し、肝線維化誘導の実験を行い、肝星細胞の活性化を介した肝硬変におけるCD39の役割について明らかにする。また、野生株の四塩化炭素肝硬変マウスに可溶性CD39もしくはATP受容体阻害剤を投与し、四塩化炭素による肝線維化の阻害能について検討を行う。 肝硬変患者の肝組織切片にて、免疫染色にて肝星細胞活性化、CD39の発現、ATP受容体の発現を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスのin vitroとin vivoの実験にてCD39ノックアウトマウスを使う予定であった。CD39ノックアウトマウスは市販されておらず、ハーバード大学ロブソン教授から供与予定であったが、ハーバード大学で繁殖に問題あり、現時点では供与されていない。当初、輸送費を計上していたが、未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
ハーバード大学でCD39ノックアウトマウスの繁殖が上手くいけば、供与予定であり、繁殖のめどが立てば、ハーバード大学から愛媛大学への輸送費として使用する。
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