近年次世代シーケンサー等の開発により胃癌の膨大な癌ゲノム情報が蓄積されつつあるが、胃癌の生命予後を決定する腹膜播腫の早期診断または治療標的分子は同定されていない。我々は『胃癌腹膜播種のマウスモデル』と『ヒト胃癌200症例』におけるWES/SNP/遺伝子/メチル化アレイの4データベースについてスパコンを用いた包括的統合的数理解析により、ドライバー遺伝子候補CXCR7 およびLoxl1を同定した。同定した標的候補遺伝子について、当科の196例の胃癌臨床検体においてRTPCR法で予後因子としての意義を確認し発現量と臨床病理学的因子及び予後との関連を検討した。さらに腹膜播種性転移細胞株を用いて、候補遺伝子をノックダウンし種々の機能解析を実施すると同時に、モデルマウスを用いて播種抑制効果について確認した。 1)CXCR7: 腹膜播種性転移細胞株でCXCR7をノックダウンし種々の機能解析を実施すると同時に、腹膜播種モデルマウスを用いてCXCR7阻害剤の播種抑制効果について確認した。当科の胃癌臨床検体では、CXCR7高発現群は、低発現群に比べ有意に予後不良であり、遠隔転移症例が有意に多かった。CXCR7過剰発現は胃癌腹膜播腫の危険因子となるbiomarkerとして、あるいはCXCR7阻害剤は、胃癌腹膜播腫阻害剤として期待される。 2)一方、当科胃癌症例において、Loxl1高発現群は低発現群に比較して有意に低分化癌、リンパ節転移が多く、また進行癌が多かった。多変量解析ではLoxl1発現量は独立予後不良因子であった。Loxl1過剰発現胃癌細胞株は有意に高い増殖能・遊走能・浸潤能を認め、またE-cadherinとVimentinの発現量が低下していた。Loxl1はリシル酸化酵素(LOX family)をコードする遺伝子の1つで、細胞外基質の生合成に必要である。LOX familyはFAK/Srcなどのシグナル回路を制御することで細胞マトリックス接着や細胞遊走を制御する。
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