研究課題/領域番号 |
15K19348
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
寺谷 俊昭 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (40624408)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂肪肝 / 過酸化水素 / CuZn-SOD |
研究実績の概要 |
我々は、「遺伝的肥満マウスモデルにおいてCuZn-SODの欠損が、脂肪肝病態を著明に改善させる」という興味深い表現形を確認した。CuZn-SODを介して産生される過酸化水素が、肝細胞細胞質のレドックス環境の変動を伴い、PPARγシグナル活性化と脂肪肝形成機序に大きな役割を担っていることが想定された。現在、我々は、肝細胞特異的にCuZn-SODを欠損させた遺伝子変異マウスを所有しており、これらマウスを用いた検討により、細胞質過酸化水素を標的とした新規脂肪肝病態の治療法の確立を目指す。 前年度までに、我々は肝細胞特異的CuZn-SODマウスとレプチン欠損肥満マウス(ob/obマウス)の交配により作成した二重変異マウスを得た。野生型、肝細胞特異的CuZn-SOD欠損マウス、ob/obマウス、肝細胞特異的CuZn-SODが欠損したob/obマウス(二重変異マウス)の4群に分け解析を行った。CuZn-SODの欠損は、摂餌量や体重に大きな影響を及ぼさなかったが、ob/obマウスの耐糖能異常及び脂肪肝病態形成を抑制した。これらマウスより肝細胞を分離し解析を行ったところ、CuZn-SOD欠損により肝細胞の過酸化水素濃度が有意に減少していた。また、肝細胞において、CuZn-SOD欠損は、PPARγの核移行を阻害し、肝細胞のPPARγシグナル下流遺伝子であるFsp27及びaP2 mRNA発現量を有意に低下させた。これらCuZn-SOD欠損による肝臓の表現形は、CuZn-SODアデノウィルスベクターをマウスに投与するとrescueされることを確認した。 同様の検討を食餌性肥満モデルマウスで行なった。高脂肪食もしくは通常食を野生型及び肝細胞特異的CuZn-SOD欠損マウスに12から24週間投与した。食餌性肥満モデルマウスにおいても、肝細胞特異的CuZn-SOD欠損による脂肪肝病態の改善が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度まで、実験に使用するための遺伝子変異動物の確保が困難であった。研究協力者からの技術支援により効率良く実験動物の確保することが可能となった。さらに、実験動物の飼育スペースも確保できたことにより複数実験同時にすることが可能となり、前年度までの遅れを取り戻すことができた。本研究計画に記載した動物実験が順調に行えるようになったが、それに伴い解析サンプル数が急増した。そのため、肝臓以外組織の解析やミトコンドリ過酸化水素量の定量など一部の解析が行えていないが、これら解析については、すでに所属研究室で確立された手法を用いるため、次年度に行うin vitro実験と並行して順次行える状況にある。これらの状況を考慮すると本研究課題は概ね順調に実施されていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までのin vivo実験により、CuZn-SODにより産生される肝細胞細胞質過酸化水素が、レドックス依存的にPPARγシグナルを活性化させ、脂肪肝を増悪させる機序が明らかになる。そこで、CuZn-SOD欠損肝細胞、Mn-SOD欠損肝細胞、PPARγ欠損肝細胞、および野生型肝細胞を用いたin vitro解析を進める。それら培養細胞の細胞質過酸化水素レベルを過酸化水素などにより変化させ、またPPARγ過剰発現アデノウイルス感染によりPPARγシグナルを活性化させた際の脂肪滴形成を評価する。DNA array法、Real time PCR法、Western blot法、免役沈降と非還元状態・還元状態でのSDS-PAGE、ゲルシフトアッセイなどを用い、PPARγシグナル活性化を多角的にかつ定量的に評価する。脂肪的に形成に関与する遺伝子、抗酸化ストレスマーカー及び炎症性サイトカインなど各種パラメーターをリアルタイムPCR法で定量する。我々が既に作成したCuZn-SOD過剰発現アデノウイルス、Catalase過剰発現アデノウイルス及びGlutathione peroxidase過剰発現アデノウイルスの感染によるrescue実験も施行する。以上の結果をin vivo解析結果と併せて、肝細胞細胞質レドックス調節と、PPARγシグナル変化との相関を詳細に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度まで、実験に使用するための遺伝子変異動物の確保が困難であったため、マウスを使用した実験が遅延した。研究協力者により効率良い実験動物の繁殖が可能となり、また、所属研究室における動物飼育スペースの確保により、複数の実験を同時に施行することが可能となった。動物実験の効率化より前年度までの遅れを取り戻すことになったが、サンプル数が急増し本年度の研究計画に記載した解析項目の一部が、データ取得に至らなかった。しかし、マウスin vivoモデルは作成済みで肝臓及び脂肪組織等のサンプルはすでに回収済みである。これら組織サンプルを用いた未施行解析を次年度に繰越して行う必要があるため、研究費の一部を次年度に繰越た。
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次年度使用額の使用計画 |
未施行の解析については、すでに所属研究先で実験手法が確立されている。次年度に行うin vitro実験と並行して行うことは可能であり、一部サンプルはすでに解析が始まっている。本年度に行うことができなかった肝臓以外組織の解析は次年度に順次行っていく予定で、次年度に全ての解析が終了する予定になっている。
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