研究実績の概要 |
NSAIDsは頻繁に処方される藥物であるが、出血を伴う上部及び下部消化管障害を引き起こすことが以前より大きな社会的及び医学的問題となっている。原因が過剰な酸分泌である上部消化管障害と違い、NSAIDs起因性小腸障害は酸が関与せず、酸化ストレス等に対する過剰な生体反応の結果として引き起こされると考えられている。本研究はオートファジー、ERストレス反応及びアポトーシス(細胞死)に関与する分子がどの様に本障害に関与しているかを明らかにする事を目的としている。平成27年度はオートファジーの関与について成果を上げる事が出来た。小腸特異的オートファジー欠損マウス(Atg5小腸特異的欠損マウス)において、インドメタシン経口投与により小腸障害をマウスに誘引した所、予想に反して、小腸障害が抑制される事を当該研究室が報告した(Harada S et al., 2015,JPET)。これは軽度な酸化ストレスの上昇が、NSAIDs誘引性障害を保護する事を見出した研究であるが、当研究の妥当性を後押しする論文であると考えられる。NSAIDs起因性小腸障害では結合組織中コラーゲンの分解が起こりこれが、粘膜の保護力低下の一因となっていることを以前に報告しているが(Edogawa S et al., 2014, J. Proteomics)、このコラーゲンの分解にVHL(Von Hippel-Lindau)タンパク質が関与している事を明らかにした(Yokoe S., Kojima Y et al.,2015, BBRC)。VHLはVon Hippel-Lindau病の原因タンパク質であり、虚血ストレス応答やがん細胞の増殖等の機能を有し、NSAIDs起因性障害との関連性を見出した事は今後の治療を考える上で非常に有用なことであると考えられる。
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