慢性血栓塞栓性肺高血圧症の新しい早期発見・予防・治療法の開発

2015 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 15K19360
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 矢尾板 信裕 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 助教 (00735368)
• 研究期間 (年度): 2015-04-01 – 2017-03-31
• キーワード: 肺高血圧症 / 血栓 / 線溶系

研究実績の概要

肺血栓塞栓症患者のサンプルを用いて、当科で構築したWhole blood clot-lysis assayとPlasma clot-lysis assayを施行した。その結果、全血の血栓においても、血漿血栓においても肺血栓塞栓症患者で線溶能が低下していることが示された。血漿中TAFI抗原量をELISAとWestern blotで測定した所、肺血栓塞栓症患者では抗原量が多く、またTAFIの活性も高値を示した。また、血漿中TAFI抗原量の増加は慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者に限らず、急性肺塞栓症患者でも高値であった。血漿中TAFI抗原量はWhole blood clot -lysis assay及びPlasma clot-lysis assayで認められた線溶能の低下と有意な相関関係を示し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症だけでなく、急性肺塞栓症患者においても、線溶能の低下が認められ、線溶能の低下の原因にTAFIが関与している可能性が示唆された。
当科でTAFI過剰発現マウスを世界で初めて作成した。TAFI過剰発現マウスではPlasma clot-lysis assayにより線溶能が低下していることが示された。TAFI過剰発現マウスにトロンビンの尾静脈注射により肺塞栓症を生じさせたところ、肺動脈内に認められる血栓が著明に増加していることが示された。また、TAFI過剰発現マウスを低酸素下で飼育した所、著明な肺高血圧症と肺動脈内の器質化血栓を認めた。これらのことから、in vivoにおいて下肢静脈内血栓よりも肺動脈内血栓形成にTAFIが関与している可能性が考えられた。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ヒトにおける肺血栓塞栓症におけるTAFIの関与に関しては予定通り示すことができた。また、マウスにおいても肺血栓塞栓症のモデルを確立し、また、肺高血圧症のモデルを確立することができた。

今後の研究の推進方策

肺塞栓症に線溶能の低下とTAFIの抗原量増加または活性の増加が関与していることが明らかになった。今後は肺塞栓症患者における線溶能低下を改善する薬剤を模索する。TAFI活性化阻害剤は既に報告があり、その薬剤を購入することが出来る。また、TAFIは血小板の活性化に伴い活性化することから抗血小板剤によってもTAFIの活性化が抑制できることが推定される。抗血小板作用を有するProstaglandinI2は肺高血圧症の治療薬として現在臨床の現場で使用されている。従って、これらの薬剤を使用することで肺塞栓症患者の線溶能の低下を改善させることができないか検討していく。さらに、TAFIのSNPｓが報告されているが、TAFIの抗原量が増加している原因としてSNPｓの関与などがないかどうか検討する。
また、TAFI過剰発現マウスを用いて低酸素モデルだけではなく、複数回の肺塞栓症を生じさせ、慢性血栓塞栓性肺高血圧症のモデルにならないかどうか、またTAFIが慢性血栓性塞栓性肺高血圧症の末梢病変にどのような影響を与えるのか検討していく。

次年度使用額が生じた理由

購入予定であった本研究専用パソコンおよびディスプレイ等の購入を行わなかったため。

次年度使用額の使用計画

平成28年度に本研究専用パソコンおよびディスプレイ等を購入予定である。また、国内および海外学会への参加を計画しており、平成27年度分と併せて執行する。

研究成果

• [雑誌論文] Thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor in chronic thromboembolic pulmonary hypertension. (2016)
  • 著者名/発表者名: Yaoita N, Satoh K, Satoh T, Sugimura K, Tatebe S, Yamamoto S, Aoki T, Miura M, Kawamura T, Horiuchi H, Fukumoto Y, Shimokawa H.
  • 雑誌名: Arterioscler Throm Vasc Biol. 巻: 36 ページ: 1293-1301
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Multiple beneficial effects of balloon pulmonary angioplasty in patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. (2016)
  • 著者名/発表者名: Tatebe S, Sugimura K, Aoki T, Miura M, Nochioka K, Miyamichi-Yamamoto S, Yaoita N, Suzuki H, Sato H, Satoh K, Fukumoto Y, Shimokawa H.
  • 雑誌名: Circ J. 巻: 80 ページ: 980-988
  • DOI: 10.1253/circj.CJ-15-1212.
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [学会発表] Crucial Role of Thrombin-Activated Fibrinolysis Inhibitor in the Pathogenesis of Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension (2016)
  • 著者名/発表者名: Nobuhiro Yaoita, Kimio Satoh, Taijyu Satoh, Nobuhiro Kikuchi, Junichi Omura, Ryo Kurosawa, Masamichi Nogi, Tomohiro Otsuki, Katsuya Kozu, Kazuhiko Numano, Kota Suzuki, Shinichiro Sunamura, Shunsuke Tatebe, Tatsuo Aoki, Koichiro Sugimura, Hisanori Horiuchi, Hiroaki Shimokawa
  • 学会等名: 日本循環器学会
  • 発表場所: 仙台国際センター(宮城県仙台市)
  • 年月日: 2016-03-18 – 2016-03-20
• [学会発表] Influence of Discontinuation of Medications after Successful Percutaneous Transluminal Pulmonary Angioplasty in Patients with Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension (2016)
  • 著者名/発表者名: Nobuhiro Yaoita, Koichiro Sugimura, Shunsuke Tatebe, Saori Yamamoto, Tatsuo Aoki, Masanobu Miura, Kimio Satoh, Hiroaki Shimokawa
  • 学会等名: 日本循環器学会
  • 発表場所: 仙台国際センター(宮城県仙台市)
  • 年月日: 2016-03-18 – 2016-03-20
• [学会発表] Thrombin-activated Fibrinolysis Inhibitor in Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension (2015)
  • 著者名/発表者名: Nobuhiro Yaoita, Kimio Satoh, Taijyu Satoh, Koichiro Sugimura, Shunsuke Tatebe, Saori Yamamoto, Tatsuo Aoki, Masanobu Miura, Takeshi Kawamura, Hisanori Horiuchi, Yoshihiro Fukumoto, Hiroaki Shimokawa
  • 学会等名: American Heart Association
  • 発表場所: アメリカ(オーランド)
  • 年月日: 2015-11-07 – 2015-11-11
  • 国際学会
• [学会発表] Crucial Role of Thrombin-activated Fibrinolysis Inhibitor in the Pathogenesis of Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension (2015)
  • 著者名/発表者名: Nobuhiro Yaoita, Taijyu Satoh, Kimio Satoh, Koichiro Sugimura,Shunsuke Tatebe,Saori Yamamoto,Tatsuo Aoki, Masanobu Miura, Yoshihiro Fukumoto, Hisanori Horiuchi, Hiroaki Shimokawa
  • 学会等名: European Respiratory Society
  • 発表場所: オランダ(アムステルダム)
  • 年月日: 2015-09-26 – 2015-09-30
  • 国際学会