好中球は、DNAと抗菌タンパク質を主成分とする好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular traps: NETs)とよばれる網目状の構造物を形成し、これに細菌を捕捉して殺菌する。NETsは感染防御に有効である一方、本来細胞内にあるべき成分を細胞外に放出するため、自然免疫に対する内因性リガンドとして作用し、炎症を増強させている可能性が考えられる。急性心筋梗塞(AMI)では好中球は最も初期に梗塞部位に出現する細胞である。申請者はこれまでの研究において、AMI急性期の梗塞周囲にNETsの産生を認めているが、その役割については解明できていない。本研究では好中球が産生するNETsがAMI後の炎症やリモデリングにどのような影響を及ぼし、またNETsを抑制することで心筋梗塞の予後を改善できるかどうかを検討することを目的とした。マウスの左冠動脈を結紮してAMIモデルを作製し、各病日ごとに心臓組織標本を作製した。抗ヒストン抗体・抗好中球エラスターゼ抗体・DAPI染色を組み合わせ、蛍光顕微鏡により観察したところ、第1-4病日の心臓組織に好中球の浸潤部位に一致してNETsの産生を認めた。具体的には、核の破壊を伴う独特の細胞死(NETosis)が惹起された好中球と、自己のDNAと抗菌タンパク質を主成分とする網目状の構造物(NETs)の形成を確認した。好中球エラスターゼは好中球内でヒストンを分解し、クロマチン凝集を促進することでNETs産生に重要な働きを示し、好中球エラスターゼ遺伝子欠損マウスはNETsを産生しないことが報告されている。そのため、同マウスに心筋梗塞を作成したところ、野生型と比較して生存期間の有意な改善と梗塞範囲の減少、心筋リモデリングの抑制を認めた。本研究により、心筋梗塞後の病態の悪化にはNETsが大きな影響を与えていることが示唆された。
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