研究課題/領域番号 |
15K19366
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
許 東洙 筑波大学, 医学医療系, 助教 (20616651)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 心房細動 / 心臓電気生理 / Nampt/NAD+/Sirtuin系 / カルシウム調節 |
研究実績の概要 |
本研究は、肥満における心房リモデリングに、全身性NAD+合成と代謝・老化・寿命制御で重要な補酵素であるnicotinamide phosphoribosyltransferase (Nampt)が鍵分子として関与し、細胞内・外型Nampt (iNampt・eNampt))の発現・活性の増加がエネルギー代謝や炎症、カルシウム調節機構に変化をもたらすことで心房細動の起こりやすい基質が形成されているという仮説を立証し、さらにその知見に基づいた心房細動の新たな予防的治療法の開発を目的としている。まず平成27年度は野生型C57BL/6Jマウスに通常食あるいは高脂肪食負荷を与えた肥満モデルマウスを用いて研究を開始した。4週齢から野生型マウスに通常食または高脂肪食を与え、12週齢での電気生理学的特性を評価した。これまでの結果では、高脂肪食負荷マウスでは、蓄積脂肪および血中アディポサイトカインの増加が認められ、電気生理学検査では心房細動誘発率が高く、心房の有効不応期が有意に短縮していた。また、心房における細胞内Namptの発現が通常食群と比較し、高脂肪食群で有意に低下し、心房刺激伝導性に関連しているキャップジャンクション蛋白Connexin-40の発現は高脂肪食群の心房組織で有意に発現が低下し、その分布も非常に不規則で、切断されたような所見が多く見られた。次にNamptヘテロノックアウトマウスの電気生理学的特性を野生型マウスと比較すると、心房細動誘発率が高く、心房の有効不応期が有意に短縮しており、Connexin-40の発現低下と配列の不整があり、高脂肪食負荷野生型マウスと同様の所見が認められた。したがって、メタボリック症候群はNampt/NAD+/Sirtuin系を介して心房刺激伝導系の変化を誘発し、心房細動の不整脈基質形成に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はおおむね順調に進んでおり、これまでの結果をまとめると、(1)高脂肪食のマウスでは心房細動誘発率が高く、誘発された心房細動の持続時間が有意に延長し、心房の有効不応期が有意に短縮する、(2) 高脂肪食群で心房筋の細胞内Namptの発現が有意に低下する、(3)ギャップジャンクション蛋白Connexin-40の発現は高脂肪食群心房組織で有意に発現が低下し、その分布も不規則になる、(4)Namptヘテロノックアウトマウスでは高脂肪食負荷マウス同様、心房細動誘発率の上昇、心房有効不応期の短縮、およびconnexin-40の発現低下と配列不整を生じることが明らかとなった。しかし遺伝子改変マウスの繁殖に時間がかかったことなどから、カルシウムイメージングやWestern blottingなど一部の実験は次年度に行うこととした。平成28度中にNamptヘテロノックアウトマウスやNampt阻害薬投与マウスの電気生理学的解析、イメージング、Western blottingなどを施行し、詳細な分子機序を明らかにする。。
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今後の研究の推進方策 |
今後、(1) マウス生体や心筋細胞を用いた膜電位・カルシウム同時イメージングにより、肥満や高脂肪食によって生じる電気生理学的現象を視覚的に解析する。(2) Nampt/NAD+/Sirtuin系がどのような機序によって電気生理学的変化を来すのか、特異的阻害薬あるいはノックダウン法によって明らかにする。(3) さらに、肥満・高アディポサイトカイン状態によって生じる電気生理学的現象について、CaMKII、RyR2のdominant negative変異体を導入した心筋細胞を用いて再度計測することによって、CaMKIIあるいはRyR2がNampt/NAD+/Sirtuinの直接的な標的分子であることを直接的に証明する。さらに、(4) 心筋伝導能を指標として、どのような阻害薬や活性化薬が心房細動抑制に有効なのか化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、心房細動持続に関与する標的分子を明らかにするとともに治療薬開発や予防法への応用を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
テレメトリー心電計は既設のものを使用し、設備購入の必要がなかったこと、また遺伝子改変マウスの繁殖に時間がかかり、平成27年度は電極カテーテルを用いた電気生理学的解析と分子生物学的解析を中心に行ったため、テレメトリー解析は次年度に行うことになり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
マウス・ラットへの電気生理学的解析や細胞電気生理に必要なテレメトリー送信機、電極カテーテルなどの器具や分子イメージングに用いる試薬、遺伝子・タンパク解析に必要な試薬、および実験動物の購入、トランスジェニックマウスの委託作製費・飼育費を消耗品費として計上する。
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