研究課題
本研究は、心不全における心筋細胞の1細胞トランスクリプトームを時空間的に解析することで、心筋細胞の不均一性を生み出す要因を明らかにし、心不全の病態形成に寄与する 分子機構の 解明につなげることを目的としている。まずマウス圧負荷心不全モデルマウスの心筋細胞を単離し、そこから抽出した心筋細胞から1細胞ごとにcDNAライブラリを作成するプロトコールを確立した。そして次世代シークエンサーを用いて1細胞ごとのRNAレベルを定量した(1細胞トランスクリプトーム)。そしてRNA定量を1分子RNA in situ hybridization法によっても確認し、心筋1細胞トランスクリプトーム解析の定量性を保証した。その後、コンピュータ解析によって特徴的な遺伝子発現の有無で細胞状態を分類することに成功し、圧負荷によって不均一に出現する細胞集団の存在を明らかにした。この細胞集団の存在は、蛍光免疫染色およびRNA in situ hybridization法によって確認した。そして重み付け共発現ネットワーク解析によって、この細胞集団で特異的に活性化するシグナルを同定し、そのシグナルを駆動する転写因子を明らかにした。さらにこの転写因子の心筋細胞特異的ノックアウトマウスを作成し、心機能を評価したところ、圧負荷をかけても心不全を生じないことがわかった。そしてこのマウスの心筋細胞を1細胞レベルで単離し、1細胞RNA-seq解析を行うことで、上記転写因子が不均一に心筋細胞内で活性化することによって乱れる遺伝子制御ネットワークを明らかにした。現在、圧負荷心不全によって心臓内で生じる非心筋細胞への影響も1細胞レベルの遺伝子発現解析により解析している。またヒトの心不全においても同様のことが生じているかを明らかにするため、ヒト心不全患者の心臓検体を用いて1細胞トランスクリプトーム解析を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していた内容についてはほぼすべて遂行して結果が出つつあり、また予想以上に進行した部分が多かった。例えば遺伝子ネットワーク解析については、コンピュータ解析の進展が著しかったため、通常の統計解析に用いるアルゴリズム以外にも、重み付け共発現ネットワーク解析の使用にまで踏み切る事ができ、それにより非常に重要な結果を得た。さらに、重要な分子のノックアウトマウスも順調に作成するとともに、その解析も当初の予想を上まわる速度で進める事ができた。また当初は本研究の追加で行えると良いと考えていた、非心筋細胞の解析、ヒト心筋細胞の解析まで着手することができ、現在の進捗状況は計画以上と考えている。
遺伝子ネットワーク解析については、重み付け共発現ネットワーク解析で様々な細胞集団を同定できることがわかったが、さらに遺伝子発現の因果関係を明らかにするような、ベイズネットワークへの展開を検討している。実際に1細胞RNA-seqデータへ応用可能なアルゴリズムを構築している。また圧負荷に伴った心筋細胞の肥大化が遺伝子発現とどう関連するかについても1細胞RNA-seqデータと形態的情報を統合することによって解析する。そして作成した重要な分子のノックアウトマウスの解析をさらに進めるとともに、非心筋細胞解析およびヒト心不全患者の心筋細胞解析をさらに進める。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
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