研究課題
心臓は常に自律拍動をするために莫大なエネルギーを消費している。心筋が虚血状態になると、エネルギーの供給と需要のバランスが崩れ心不全に陥る。しかし虚血時におけるエネルギーすなわちATPの供給制御メカニズムについては未だ解明されていない。 本研究では虚血におけるATP産生制御機構を解明するために、最近明らかにしたATP 合成酵素制御因子G0S2 の相互作用様式および量的制御機構について生化学的解析を行う。また虚血においてそのような制御機構が心筋細胞のATP 産生とエネルギー代謝にどのように関わっているかを明らかにする。平成27年度では、主に培養心筋細胞を用いた解析を行った。まず、部位特異的光クロスリンクを培養心筋細胞で効率的に行うために、アデノウイルスでの発現系の構築を行った。特に非天然アミノ酸をコードするtRNAプロモーターの選択が重要であり、それにより発現量が大きく異なることが明らかとなった。tRNAあるいはaaRSの発現量の最適化の後光クロスリンクを行った結果いくつかの部位でのクロスリンクにて、結合タンパクとみられるバンドを検出し現在解析中である。G0S2の量的制御メカニズムの解明のため、まず培養心筋細胞を用いて、G0S2がユビキチン化されているかについて検討を行った。その結果ユビキチン化を示すラダー状のバンドを認め、細胞内においてG0S2が実際にユビキチン化されていることを明らかにした。一方、非ユビキチン化変異体とされているリジン→アルギニン置換変異体を作成し、G0S2タンパク質の量的変化やユビキチン化を検討したが、野生型同様の分解速度とユビキチン化を示し、通常のユビキチン化機構とは異なる可能性が示唆された。現在ユビキチン結合部位を探索中である。
3: やや遅れている
非天然アミノ酸導入のためのアデノウイルスコンストラクトを作成したが、当初作成したものは十分な発現量を得ることができず、新たに作成し直したために時間を要した。またユビキチン化を示すところまでは順調に実施できたが、これまでの典型的なユビキチン化ではないことが示唆されたため、分解に寄与するアミノ酸部位の同定に時間を費やしている。
平成28年度では、平成27年度の成果をもとに、まず遅れているユビキチン化部位同定および結合するFoF1-ATP合成酵素のサブユニット同定に注力する。その後それらの機能的意義を解明するために心筋細胞を用いてリアルタイムでのATP濃度変化を測定する。またゼブラフィッシュにおいて、当研究室で確立された心臓でのATP濃度測定系を用いてG0S2遺伝子導入個体での心臓のATP濃度変化についての検討を行う。その後研究実施計画に基づくヒトのミトコンドリア病患者サンプルを用いた検討を行う予定である。
計画よりやや遅れており、当初当該年度に行う予定であった、G0S2変異体作成や酸素消費量の測定などエネルギー代謝パラメータに関する検討を次年度に行うことになり、余剰金が発生した。
G0S2変異体作成や酸素消費量の測定などエネルギー代謝パラメータに関する検討、およびその成果を基にゼブラフィッシュを用いたATP濃度の測定実験、ヒトのミトコンドリア病患者サンプルを用いた検討のために研究費を使用する予定である。
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PLoS One
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http://medbio.sakura.ne.jp/