研究課題/領域番号 |
15K19383
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
朔 啓太 九州大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (40567385)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自律神経 / 末梢化学受容器反射 / 慢性心不全 / 心筋梗塞 / 高血圧 |
研究実績の概要 |
心筋梗塞や高血圧など多くの循環器疾患は薬物やデバイスを用いた治療法が開発されてきているが、病態の最終像である心不全は治療による予後の改善も乏しいばかりか年々増加傾向にある。また、自律神経の過剰負荷 (交感神経活性化および副交感神経活動低下) が心不全増悪の主因であることが数々の臨床研究で示されている一方で、心不全治療において有効な自律神経減負荷治療は確立していない。近年、頚動脈小体における末梢化学受容器反射亢進が、高血圧や心不全患者において、交感神経活性化の主要な原因であることが報告されていることから、当該研究では、頚動脈小体化学受容器除神経による心不全に対する新規自律神経減負荷治療の開発に向けた基盤研究を行った。研究の初段階として末梢呼吸化学受容器反射の感受性を検討し、健常ラットと比較し心不全ラットでは亢進していること、心不全ラットに頚動脈小体切除を行なうとその感受性が低下(消失)することを確認した。また、呼吸化学受容器反射からの入力が動脈圧受容器反射の中枢弓(頚動脈圧-交感神経関係)をリセットすることによって交感神経活動の賦活化を誘発することを証明した。心筋梗塞による左室収縮能低下型心不全および高血圧性心不全の2つのラットモデルにおいて、頚動脈小体切除を施行することによって、交感神経活動が有意に抑制されることやその交感神経抑制が抗炎症効果や血行動態改善効果などを介して心臓リモデリングや予後の改善につながることを実験的に証明した。以上から、初年度において、健常および心不全モデル動物における頚動脈小体の交感神経活動への影響と頚動脈小体切除による治療効果を段階的に証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画において、初年度は、正常と心不全ラットにおける頚動脈小体化学受容器反射による交感神経調節系への定量的な影響を比較検討する基礎実験と頚動脈小体化学受容器除神経の手技確立および病態モデルの構築を想定していた。ラットにおける心筋梗塞はこれまでの研究過程で作成実績があったことから、心筋梗塞後心不全モデルにおける頚動脈小体切除の治療効果の評価まで行なうこととしていたが、高血圧性心不全モデルの確立が想定よりも早期に可能であったことから高血圧性心不全ラットモデルにおける治療効果についても証明することが可能となった。本研究の命題である、「頚動脈小体切除による心不全病態モデル動物への治療効果の証明」が初年度内におおよその結論を得ることができたためAを選択した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度における計画の主要な研究目的は、「安全な心不全治療への臨床応用へ向けて、より臨床的なプロトコールで有効性の証明や治療の最適化を行なうこと」である。本研究で行なっている頚動脈小体切除は高血圧分野においては現在、海外において臨床研究が進行中であり、当該分野の論文や実際の臨床に携わっている研究者からの情報を集めることで、臨床において想定されるセッティングを最適化し、頚動脈小体切除の効果を評価していく予定である。現時点では、治療タイミングによる効果の違い(病状早期 vs. 病状末期)や機序の異なる心不全治療薬(ACE阻害薬)への追加効果(add on effect)および現時点でももっとも一般的な交感神経への介入方法であるβ遮断薬との効果比較を想定しているが、いずれも慢性実験を必要とすることから優先順位は臨床的な重要性を考慮しながら遂行していく。
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