研究課題/領域番号 |
15K19389
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
井手 佳菜子 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 特任研究員 (20725791)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 再生医療 / ヒトES/iPS細胞 / レンチウイルスベクター / 心筋細胞 |
研究実績の概要 |
ヒトES/iPS細胞は、医療・医薬創出の基盤ツールとして期待されるが、臨床応用を実施するためには高レベルの安全性の確立が不可欠である。その安全性において最重要課題である腫瘍化(奇形種、癌)の完全な克服技術は未だない。これまでに、僅かでも残存未分化細胞が移植細胞に混入すると、奇形種を形成する可能性があることや、奇形種に限らず悪性腫瘍(癌)の発生も高度であるという報告が数多くあることから、臨床化に向けて腫瘍化原因細胞(残存未分化細胞)の根絶は必須の課題といえる。そこで我々は腫瘍化原因細胞を直接除去すべく、「ES/iPS細胞の腫瘍化原因細胞を同定・殺傷する新規ベクターシステム」の開発を進めており、以下の3つの項目についての検証を行っている。 1)腫瘍化原因細胞を特異的に同定・殺傷できる遺伝子プロモーター、薬剤誘導性遺伝子の同定 2)生体内における腫瘍化原因細胞(奇形腫・癌)の特異的殺傷効果の検証 3)ES/iPS細胞の心筋分化誘導後に残存する腫瘍化原因細胞の除去と、移植時の安全性の確認 1年目である今年度は、1)2)について進めており、1)で複数解析候補の遺伝子を搭載したベクターを複数完成させることができ、このうち一部を多能性幹細胞に導入し、培養条件下において未分化細胞の可視化および殺傷効果抑制効果を見出すことができた。さらに、同ベクター導入細胞で、生体内での腫瘍抑制効果ももたらすことが検証できたため、本システムの有用性が確認できた。今後より複数の遺伝子について詳細な解析を行うことで、腫瘍化原因細胞を直接除去可能なベクターシステムの確立が期待されるため、引き続き研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)腫瘍化原因細胞を特異的に同定・殺傷できる遺伝子プロモーター、薬剤誘導性遺伝子の同定:まずは、目的細胞可視化のための蛍光タンパク質、および殺傷のための薬剤誘導性自殺遺伝子を搭載し、かつ複数プロモーターの入れ替えが自在にできるリコンビネーションカセットを持つ、本システムの基盤ベクターの構築を複数完成させた。さらにこれらに随時解析候補となるプロモーターを組み替えたものを最終構築として完成することができた。また実際に作製したベクターを導入した未分化細胞では、蛍光タンパク質の発現によりFACSを用いて分取することができることを確認し、細胞導入後の長期的な解析にも適していることが確認でき、順調に計画が遂行できているものと評価する。 2)生体内における腫瘍化原因細胞(奇形腫・癌)の特異的殺傷効果の検証:1)で完成したベクターのうち未分化特異的なプロモーターおよび恒常性プロモーター(コントロール)について、まずはin vitroにおける未分化な多能性幹細胞の可視化および特異的殺傷効果を検証でき、さらに動物モデルにおいても、上記のベクターを導入した細胞を移植し、腫瘍抑制効果をもたらすことが確認できたことから、順調に計画が遂行できているものと評価する。 3)ES/iPS細胞の心筋分化誘導後に残存する腫瘍化原因細胞の除去と、移植時の安全性の確認:3)については、1)2)で十分な検討を行った上で、最終段階で検証を実施する予定であるが、予備段階として、上記ベクター導入細胞をランダムに分化させた場合にはin vitroにおいて殺傷が見られず、分化細胞に対する安全性は確認できたため、計画は順調に遂行できているものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、複数構築したベクターシステムの一部を用いて機能解析を行い、腫瘍化原因細胞の除去に対する有用性が確認できたため、今後はより複数の遺伝子解析候補について、本ベクターシステムを用いてin vitroおよびin vivoにおける機能検証を行い、最終的に最も効率よく腫瘍化原因細胞を除去できるベクターシステムの確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画はおおよそ順調に進み経費使用も概ね計画通りに進んだが、実験実施時期を移行し来年度での使用予定に変更したものや、試薬・消耗品の一部変更によりわずかな誤差が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度の実験実施計画に必要な物品・旅費等に使用し、より実験内容を充実させ、学術的な知識向上や情報収集、研究成果の発信のために役立てる予定である。
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