急性心筋梗塞(MI)は現在も死亡率は高く、さらに糖尿病(DM)合併MIは予後不良である。我々はHigh mobility group box 1 (HMGB1)が壊死心筋細胞から細胞外へ分泌され梗塞周辺領域での血管新生を促進し心保護的に作用することを報告した。糖尿病治療のターゲットであるdypeptidyl peptidase 4 (DPP4)がインクレチンの他にも様々な生体内生理活性物質を基質としていることが明らかになってきた。そこで我々はDM合併MIにおいてDPP4活性阻害がHMGB1の分解を抑制することで梗塞後の心機能改善に関与するかを検討した。 心筋特異的HMGB1過剰発現マウス(TG)と野生型マウス(WT)を用いた。DMはストレプトゾトシンの腹腔内投与で作成し、DPP4阻害剤(DPP4I)としてアナグリプチンを使用した。TG・WTマウスそれぞれについてnon-DM、DM、DPP4I投与DMの3群を作成し、全ての群においてMIを作成した。血中HMGB1濃度、梗塞サイズ、血管新生の程度について6群間で比較した。DPP4活性はDMにより上昇し、DPP4I投与により約90%抑制されていることを確認した。梗塞後HMGB1血中濃度はTG群がWT群より高値であったが、TG-DM群では有意に低下し、DPP4I群はTG群と同程度まで改善した。WT群と比較しTG群の梗塞サイズは抑制されていたが、TG-DM群はTG群と比べ大きく、DPP4I群はTG群と同程度に抑制された。梗塞周辺領域の血管新生の程度は、TG群はWT群と比較し高いがTG-DM群では抑制され、DPP4I群でTG群と同程度まで改善した。DMではDPP4活性が亢進しHMGB1分解が促進されるためHMGB1の血管新生作用が障害され、DPP4活性を阻害することでDM状態でもHMGB1の機能が保たれることが示唆された。
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