研究課題
ナトリウム利尿ペプチド(NP)はGuanylyl cyclase-A受容体(GC-A)を介して末梢性にミネラルコルチコイド受容体(MR)活性を抑えて心不全を抑制することを我々は報告してきた。本研究において、GC-A 受容体欠損(GC-A KO)マウスの蓄尿カテコラミンは野生型(WT)マウスに比べて有意に高く、GC-Aシグナルが交感神経活性を抑制している事が示唆された。我々は中枢性にもNPがMRを抑制して交感神経活性に影響を及ぼしているかを確かめるため、GC-A KOにMR拮抗薬であるエプレレノンを脳室投与した。しかし、蓄尿カテコラミンは低下せず、さらに食塩がMR/交感神経活性を亢進させる事からKOマウスに高食塩負荷を与えたが、さらなる蓄尿カテコラミンの上昇は認めなかった。以上より、GC-A KOマウスは食塩・中枢MR非依存的に交感神経活性亢進を認める可能性が示唆された。興味深いことに、本研究の高食塩負荷においてGC-A KOマウスでは、心筋リモデリングのマーカーであるcollagen1やBNPのmRNA発現が亢進していた。そこで、食塩による心筋リモデリングに対してNPの及ぼす影響を明らかにする事を新たな目的とした。GC-A KOとWTマウスにおいて、血圧を上昇させない量のaldosteroneまたはvehicleを浸透圧ポンプで4週間投与し、それぞれに低食塩(0.001%), 通常食塩(0.6%), 高食塩(6.0%)を与えた。GC-A KOでは、高食塩とaldosterone投与群において著明な心筋肥大と間質の線維化が認められ、心肥大・線維化と酸化ストレスに関連する遺伝子の発現が亢進しており、さらにMRの下流遺伝子であるSgk1の遺伝子発現も亢進していた。これらの変化は野生型マウスでは認められなかった。NPが心筋リモデリングに対する食塩の増悪作用を抑制する事を確認できた。
2: おおむね順調に進展している
GC-A KOマウスは食塩・中枢MR非依存的に交感神経活性亢進を認める可能性が示唆され、我々の予想とは異なるnegative data であったが、本研究の経過中に高食塩負荷においてGC-A KOマウスでは、心筋リモデリングのマーカーであるcollagen1やBNPのmRNA発現が亢進している事が明らかになった。そこで、NPの食塩に対する抑制作用を明らかにすべく、KOとWTマウスにおいて、食塩濃度を変化させて、アルドステロンによる心筋リモデリングの効果を検討した。その結果、GC-A KOマウスのaldosterone投与下において、過剰な食塩が心筋リモデリングを引き起こす事が明らかになった。経過中に予期していない興味深い結果を認めたため、一部計画を変更して実験を遂行し、ナトリウム利尿ペプチドの新たな心保護作用の役割について論文に報告した。
本研究では、ナトリウム利尿ペプチドの受容体欠損マウス(GC-A KO)は食塩・中枢MR非依存的に交感神経活性亢進を認める可能性が示唆された。また本研究の経過中、GC-A受容体欠損マウスにおいて、過剰な食塩が心筋リモデリングを引き起こす事が明らかになった。この事は、ナトリウム利尿ペプチド/GC-A受容体のシグナルが、心筋リモデリングに対する食塩の増悪作用を抑制する事を示唆する新たな発見であった。我々は引き続き、NPと交感神経系の相互作用を確かめるため、中枢のMRだけではなくアンギオテンシンⅡ受容体/交感神経系にも注目し、GC-A KOマウスにおいてアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬の脳室投与を試み、GC-A KOマウスの交感神経活性亢進に影響を及ぼすか否かを検討する予定にしている。
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Life Sciences
巻: 165 ページ: 9-15
https://doi.org/10.1016/j.lfs.2016.09.011