研究課題/領域番号 |
15K19398
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
芦野 隆 昭和大学, 薬学部, 講師 (00338534)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 血管内膜肥厚 / 酸化ストレス / Nrf2 / Keap1 / 血管平滑筋細胞 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
本申請研究は、血管傷害後の新生内膜形成段階におけるNrf2の役割を解明することで、動脈硬化進展における酸化ストレス制御系の重要性を明らかにするものである。前年度は、血管傷害後の血管組織におけるNrf2の高発現と血管平滑筋細胞(VSMC)アポトーシスの関連性、さらにVSMCのKeap1ノックダウンによるアポトーシスの誘導を明らかにした。引き続き平成28年度は、Nrf2遺伝子欠損(KO)マウスを用いて、血管傷害後のVSMCアポトーシス誘導メカニズムについて検討し、以下の点を明らかにした。 1.Nrf2 KOマウスにおける血管新生内膜形成中期の血管細胞アポトーシスの減少 血管傷害後の新生内膜形成段階における血管細胞アポトーシスとNrf2の関係について、Nrf2 KOマウスを用いて検討した。マウス大腿動脈にワイヤー傷害を施し、VSMC増殖期(傷害2週間後)における血管組織のアポトーシス細胞をTUNEL染色により検出した結果、Nrf2 KOマウスではWild-typeと比較して、TUNEL陽性細胞数が有意に減少した。さらに、新生内膜を測定し比較したところ、Nrf2 KOマウスで血管新生内膜の肥厚が有意に亢進していた。 2.Keap1ノックダウンによるVSMCアポトーシス誘導におけるNrf2の役割 VSMCのKeap1 siRNA処置によるアポトーシス誘導におけるNrf2の役割について、Nrf2 siRNAをコトランスフェクションすることで検討した。その結果、Keap1/Nrf2同時ノックダウンは、アネキシン-Vの結合細胞数がKeap1ノックダウンと比較して減少し、さらにアポトーシス様形態の細胞数も減少した。 以上の結果から、血管傷害後の新生内膜形成中期におけるNrf2の活性化は、VSMCのアポトーシスを誘導し、血管内膜肥厚を抑制している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、ガイドワイヤーを用いた大腿動脈内皮剥皮モデルをNrf2 KOマウスで作製することで、新生内膜形成中期のVSMC増殖期において増加する血管細胞アポトーシスに酸化ストレス制御因子Nrf2が関与することを明らかにした。前年度には、血管修復部位で認められるアポトーシス細胞の周囲においてNrf2が蓄積していることを示しており、これらの結果から、Nrf2が血管細胞のアポトーシスに関与していることが示唆された。 さらにKeap1ノックダウンにより引き起こされた培養VSMCのアポトーシスが、Nrf2の同時ノックダウンにより抑制されることを明らかにした。Keap1ノックダウンは、Nrf2の活性化を引き起こすことが示されており、これらの結果から、VSMCアポトーシスがNrf2の活性化により制御されていることが示唆された。 これらの知見は、酸化ストレス応答因子Nrf2が、酸化ストレスにより亢進するVSMCの増殖および遊走だけではなく、アポトーシスにも関与することで、血管傷害後の新生内膜形成を調節し、血管内膜肥厚増悪の抑制と血管恒常性維持に貢献していることを示している。傷害初期におけるNrf2の機能については、今後の課題であるが、現在までのところ順調に研究は進んでいるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までの検討において、新生内膜形成中期のVSMCにおけるNrf2の機能を明らかにすることができた。今後は、血管傷害初期段階である傷害部位への単球/マクロファージの接着、遊走におけるNrf2の関与に焦点をあて、Nrf2 KOマウスを用いて検討を行う。さらに、Wild-typeとNrf2 KOマウスから単離したマクロファージを用いて、細胞遊走アッセイや一酸化窒素合成酵素および炎症性サイトカインの遺伝子発現変動を検討することで、細胞機能や炎症応答におけるNrf2の関与とメカニズムについて検討を行う。 また血管傷害後の新生内膜形成には単球系細胞中に存在するとされる血管前駆細胞が関与することが報告されていることから、血管傷害後の血管前駆細胞の血中動態の変化や傷害部位への動員におけるNrf2の関与について検討を行う予定である。
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