虚血性心疾患の原因となる動脈硬化は、その発症と進展の様々な段階において酸化ストレスの影響が示唆されている。生体内には、酸化ストレスに対して鋭敏に応答し、各種抗酸化酵素の遺伝子発現を統合的に制御するNrf2/Keap1システムが存在することから、本課題は、動脈硬化進展に関与する一連の段階におけるNrf2/Keap1システムの役割解明を目的とした。 前年度までに内膜肥厚中期においてNrf2/Keap1システムが、血管平滑筋細胞(VSMC)のアポトーシスを誘導することで過剰なVSMC増殖を抑制することを明らかにした。そこで最終年度である平成29年度は、内膜肥厚初期における血管傷害部位への単球/マクロファージの接着・遊走における役割について検討した。その結果、Nrf2-KOマウスにおいて、傷害初期(7日後)に血管傷害部へのマクロファージの接着・浸潤の有意な増加が見られた。そこでマクロファージの遊走におけるNrf2の役割を検討したところ、Nrf2-KOマクロファージでは、Monocyte chemoattractant protein-1刺激による抗酸化タンパク質の発現低下と遊走能亢進が認められた。以上の結果から、Nrf2システムは、血管傷害後のマクロファージの遊走に関与することで血管内膜肥厚を調節し、動脈硬化への進展を抑制していることが示唆された。 本課題の遂行により、酸化ストレス応答因子であるNrf2/Keap1システムが、血管傷害後の単球/マクロファージの接着・遊走およびVSMCのアポトーシス誘導による過剰増殖抑制に関与することで血管内膜肥厚を調節し、動脈硬化への進展を抑制するという新規役割が明らかになった。これらの成果は、Nrf2を標的とした動脈硬化および虚血性心疾患の治療へと応用できるものと考えられる。
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