研究課題
これまでの検討で、ヒト肺癌細胞株をNK細胞除去重症免疫不全(SCID)マウスに接種することで、臨床における転移様式を反映した多臓器転移モデルを確立した。またヒト肺癌細胞株を低接着培養プレートを用いて特殊環境下で培養することにより、sphere形成能を有する癌幹細胞様分画の単離に成功した。これを受けて、平成27年度は複数のヒト肺癌細胞株から癌幹細胞様分画を単離し、それらの転移形成能について検討した。検討には肺小細胞癌細胞株(SBC-5)と肺腺癌細胞株(LC-319/bone2)を用いた。いずれの細胞株に関しても、低接着培養プレートを用いて特殊環境下で培養することにより、sphereを形成する細胞分画の単離に成功し、sphere形成癌幹細胞様分画においてNANOG、CXCR4などの幹細胞マーカーの発現亢進を確認した。in vitroにおける増殖能についてMTT assayを用いて検討したが、親株とsphere形成癌幹細胞様分画の間で差はなかった。次にこれらの細胞を、NK細胞除去SCIDマウスに接種したところ、両細胞株ともsphere形成癌幹細胞様分画で肝臓への転移が大幅に上昇し、肺への転移が減少する結果が得られた。またSBC-5ではsphere形成癌幹細胞様分画において、より転移早期の段階から肝臓における微小転移が増加していることを臓器中のヒトhouse keeping遺伝子発現量の比較により確認した。これらの結果からsphere形成癌幹細胞様分画は肝臓への臓器特異的転移において中心的役割を果たすと考えた。親株とsphere形成癌幹細胞様分画の発現遺伝子の差異についてcDNA microarray法を用いて解析したところ、複数の肝転移促進候補遺伝子が抽出され、現在それらの選定を行っており、その分子機構の解明や新規治療法の開発を目的に検討を継続している。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、sphere形成癌幹細胞様分画の、NK細胞除去SCIDマウスを用いたヒト肺癌多臓器転移モデルにおける転移形成能について主に検証した。その結果、sphere形成癌幹細胞様分画は肝臓特異的に転移形成を促進することが明らかとなり、また肝転移促進候補遺伝子群も抽出している。今後、抽出された候補遺伝子について、強制発現株や発現抑制株を用いた検討を行い、肝転移の分子機構の解明やそれらを標的とした新規治療法の開発を行う予定である。当初の予定はおおむね順調に進んでいると考えられる。
今後、抽出された肝転移促進候補遺伝子の強制発現株や発現抑制株を用いた検討を行い、どのような機序で肝転移が促進されるのかについて検討を行う予定である。具体的には肝転移促進候補遺伝子に対する恒常的な発現抑制株を作成するために、shRNAベクターをレンチウイルスを用いて各種肺癌細胞株に導入し、発現抑制株から再度sphere形成細胞を単離する。それらをNK細胞除去SCIDマウスに接種することにより肝転移形成能が低下するか確認し、肝転移促進遺伝子の選定を行う。また選定された肝転移促進遺伝子を強制発現させることで肝転移が促進されるかどうかについても確認する。その他、肝転移促進候補遺伝子のin vitroにおける増殖能や浸潤能に及ぼす影響についても検討し、またin vivoでの実験系から得られた組織検体を用いた免疫組織学的検討を行う。これにより、肝転移促進に関する分子機構を解明し、それらを標的とした新規治療戦略の妥当性について検証できる。
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