研究課題/領域番号 |
15K19433
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
國保 成暁 日本医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (90595167)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | mTOR阻害薬 / Temsirolimus / 肺障害 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
mTOR阻害薬による薬剤性肺障害は高い発症頻度と低い死亡率を認め、従来の薬剤性肺障害とは発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている。近年、mTOR 阻害薬による肺障害モデルマウスの研究が報告され、肺胞上皮障害とマクロファージの欠乏によって肺の炎症が惹起されているという報告がなされたが(Am J Physiol;2014),関連するタンパクやpathway 解析は施行されておらず病態は不明である。一方でタンパク質解析の著しい進歩により気管支肺胞洗浄液(BALF)を用いた解析が進み、間質性肺炎に対しても多くのプロテオーム解析が行われている (Proteomics.2006, J Chro B Ana Tech Bio Life Sci.2002)。 今回我々は薬剤肺障害におけるBALF の質量分析によるタンパク解析がその発症メカニズムに重要な情報を与えうると考え、mTOR肺障害モデルマウス・BLM 肺障害モデルマウスとコントロールマウスのBALFを用いて質量分析を行い、Gelsolinや脂質関連のApolipoprotein Aに注目してpathway解析を行っている。 一方でTOR阻害薬投与モデルマウスの病理組織所見においては、ヒトと同様の所見を得ると共に、間質性肺炎のバイオマーカーであるSP-Dの血清・BALF中の上昇も確認している。また肺胞腔内に脂質が集積するという既報告に基づき、電子顕微鏡を使用して組織球やII型肺胞上皮の超微形態に着目しており、mTOR阻害薬による肺障害モデルにおいては組織球とII型肺胞上皮内に多数のLipidの集積が起こるという結果も得られている。今後は更にそのメカニズムに迫るべくvitroの実験も追加していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mTOR阻害薬による肺障害モデルマウス作成には成功している。モデルマウスの病理所見では、肺胞腔内の組織球の集簇や巨細胞の出現、II型肺胞上皮の増生といったヒトに類似した所見が得られており、脂質の貯留も確認している。また血清・気管支肺胞洗浄液を用いた解析ではSP-Dの上昇を示している。質量分析ではheat mapを作成した結果、脂質関連のApolipoproteinに着目してpathway解析を施行している。 また電子顕微鏡による検討では、組織球とII型肺胞上皮細胞においても脂質の貯留が認められることを示しており、既報告の組織球の傷害とは異なったメカニズムでの脂質貯留の可能性を考えている。また得られた肺組織においてmTORに関わるpathwayの免疫染色(p-mTOR,4E-BP1,p70S6K)を行うとともに病態に関与すると考えられる脂質関連タンパクをWestern Blottingを用いて解析を施行している。
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今後の研究の推進方策 |
マウスとヒトにおけるmTOR阻害薬による肺障害の組織においても脂質関連の免疫染色を施行して、肺組織に発生している現象とその局在の検証を行う。 一方でマウス肺胞上皮細胞(MLE12)の培養細胞を使用して、mTOR阻害薬投与にて肺胞腔内に脂質が貯留するメカニズムを解明する。
得られた研究結果を学会や研究会などで発表し、最終的には論文化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
BALFを用いた質量分析の経験に乏しく、試料の調整や解析に時間がかかった。 具体的な成果が得られてから方向性が定まる為に、必要経費を次年度に持ち越しを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
今後も質量分析を行うための各種試薬が必要である他、モデルマウスの作成や細胞培養、変異遺伝子及びsiRNA のtransfection、免疫染色を行うための動物購入、飼育、試薬等の各種薬剤が必要である。更に得られた候補タンパクについて免疫染色・in situ hybridization, PCR等で解析を進めるために消耗品や各種抗体が必要である。 上記により得られた研究結果を学会及び論文で発表するため、また研究過程における資料収集 に、国内および海外旅費、研究成果投稿料などを使用する。
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