研究課題
【背景】mTOR阻害薬(mTOR-i)は種々の悪性疾患に対して抗腫瘍効果を有する薬剤であるが、高頻度でリンパ球性胞隔炎等などの薬剤性肺障害を発症することが知られている。【方法】ヒトmTOR-i肺障害2症例の肺病変を病理学的に検討した。またmTOR pathwayと脂質関連分子に着目してマウスと培養細胞(マウス肺胞上皮株:MLE12)を用いてmTOR-i肺障害モデルを作製して病理および生化学的解析を行った。C57/BL6マウスを用いてTemsirolimus (10mg/kg/day)を3回/週で計4週間投与したモデルと、Control群としてVehicleとBLM投与モデルを作製し、MLE12ではTemsirolimusを0-20μMの濃度で投与し24時間まで観察するモデルを作製し解析した。【結果】mTOR-i肺障害2症例においては泡沫化した肺胞上皮の増生が認められた。mTOR-i投与マウスでは血清中T-choと遊離脂肪酸値が上昇し、血清とBAL中のSP-Dも高値を示した。Temsirolimus投与によりモデルマウスで肺胞上皮の増生とその細胞質内の脂肪滴貯留が認められ、MLE12においても脂肪滴貯留の所見が認められた。Temsirolimus投与により、マウス肺では脂質関連転写因子であるSREBP1と脂肪酸合成酵素の発現が亢進しPPAR-γ発現の抑制がみられた。MLE12においても脂質関連分子の動態は同様であった。【結語】mTOR-iは、全身性および肺胞上皮における脂質代謝ストレスを介して上皮傷害を惹起していると考えられた。mTOR pathwayの下流に位置するSREBP1とPPAR-γの発現変化がmTOR-iによる肺胞上皮傷害に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
まずはヒトmTOR-i肺障害2症例の肺病変を病理学的に検討し、II型肺胞上皮内に脂質貯留が認められることを確認している。その結果を踏まえてマウスとマウス肺胞上皮株(MLE12)を用いてmTOR-iを投与して病理および生化学的解析を施行した。その結果、mTOR-i投与マウスでは血清中T-choと遊離脂肪酸値が上昇し、血清とBAL中のSP-Dも高値を示していた。病理的にもII型肺胞上皮の増生とその細胞質内の脂肪滴貯留所見が得られた。これらの結果はヒトにおける所見と類似しており、mTOR-i肺障害モデルマウスの作製に成功したと考えられた。またMLE12においてもmTOR-i投与にて細胞質の脂肪滴貯留の所見が得られている。次にmTOR-i投与による脂質関連因子の動態に着目した。するとマウス肺では脂質関連転写因子であるSREBP1と脂肪酸合成酵素の発現が亢進し、PPAR-γ発現の抑制がなされていることがWB法により確認された。更にMLE12においても同様の脂質関連分子の動態が得られている。これらの結果により、mTOR-iは全身性および肺胞上皮における脂質代謝ストレスを介して上皮傷害を惹起していることが明らかになっている。
現在までの研究成果により、マウス肺やマウス細胞株において脂質関連転写因子であるSREBP1発現が亢進し、PPAR-γ発現の抑制がなされていることが確認されている。その為、マウス細胞株においてSREBP1のknock down下でmTOR-iの投与を行い、アポトーシスの増減を確認する。さらにはPPAR-γのアゴニストを前投与した状態でmTOR-iを投与してアポトーシスの増減を確認する。以上によりSREBP1やPPAR-γの動態が肺胞上皮障害にどのような影響を与えているかを調べる。次にmTOR-i肺障害マウスやヒトの肺を用いてSREBP1の免疫染色を施行してその局在を同定する。
研究計画は概ね順調に進んでおり、病態に関与する候補タンパクが絞り込めている。しかしながら更なる検証や追加実験が必要である。次年度は学会発表などを経て具体的な論文化を目指していくために諸経費が必要である。
モデルマウスの作製や細胞培養、変異遺伝子及びsiRNAのtransfection、免疫染色を行うための動物購入、飼育、試薬等の各種薬剤が必要である。上記により得られた研究結果を学会及び論文で発表するため、また研究過程における資料収集に、国内および海外旅費、研究成果投稿料などを使用する。
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Pulm Pharmacol Ther.
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Hum Pathol
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