研究課題
UIPおよびOPと病理診断されたヒト肺組織を用い、両者の早期線維化巣のみをミクロダイセクションにて抽出し、質量分析の手法を用いて発現・沈着しているタンパクの解析を行った。UIPの早期線維化巣はOPのそれと比較して筋細胞に由来するタンパクが多く発現・ 沈着しており、基底膜の主成分であるIV型コラーゲンはUIPの早期線維化巣のみに沈着し、OPの早期線維化巣には沈着を認めなかった。いくつかの筋細胞由来タンパクは、免疫染色を用いてヒト肺組織にて発現を可視化することができた。機能解析については培養細胞にたいするsiRNAを用いた発現ノックダウン、アデノウイルスベクターを用いたマウス肺での強制発現を介して肺線維化における機能解析を試みる。UIPの早期線維化巣はOPの早期線維化巣に比して血管新生に乏しいこと、IV型コラーゲンがUIPの早期線維化巣のみに沈着し、OPのそれには沈着を認めないことから、IV型コラーゲン由来血管新生阻害因子(キャンスタチン)が、UIPの早期線維化巣に沈着している可能性を想定し、質量分析を行ったところキャンスタチンに類似したタンパクが沈着している可能性が示唆された。生体におけるキャンスタチンの作用解析を目的にin vitroの実験を行ったところ、培養ヒト肺線維芽細胞はTGF-beta1刺激により 筋線維芽細胞化すると共にキャンスタチンを産生した。リコンビナントキャンスタチンは肺線維芽細胞の遊走能を抑制し、UIPにおける肺線維化の難治化・持続遷延化に貢献している可能性が示唆されたため、これらの所見をまとめ学術誌に発表した。
2: おおむね順調に進展している
IV型コラーゲンやキャンスタチンの間質性肺炎の早期線維化巣における発現・沈着やその予想される機能についての解析は、当初の予定よりやや早く進行しており、すでに学術誌にて発表した。筋細胞由来タンパクの間質性肺炎の早期線維化巣における機能解析は、マウス肺に高発現するウイルスベクターが当初予定していたような効果を上げることができなかったため、ウイルスベクターの見直しが必要であり、当初の予定より遅れている。全体としてはおおむね予定通りに進展していると考えられる。
マウス肺にて高発現するアデノウイルスベクターを用いてキャンスタチンや、筋細胞由来タンパクをマウス肺にて強制発現させ、肺線維化における機能について解析を進めていく。病的線維化の主因の一つである過剰な線維芽細胞の増殖を抑制する目的で、肺以外の領域で線維芽細胞増殖抑制作用を有するような化合物が肺線維芽細胞でも同様の作用を有するか検討していく。
ミクロダイセクションを用いた間質性肺炎の早期線維化巣に沈着する新規タンパク質の解析において、当初想定されていたよりも候補となるタンパクが少なかったため、候補タンパクの解析に 必要な、免疫染色用抗体やPCR試薬、siRNA試薬などの購入が想定より少なかった。アデノウイルスベクターを用いたマウス肺でのタンパク発現が当初想定していたものより少なく、検討に時間を要した。
候補タンパクの同定を進め、免疫染色用抗体やPCR試薬、siRNA試薬、アデノウイルスベクターなどの購入費用とする。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
International Journal of Clinical and Experimental Pathology
巻: 9 ページ: 12714-12722