研究実績の概要 |
小細胞肺癌は肺癌の中で最も悪性であり、化学療法や放射線療法といった古典的な治療法以外に有効な治療法はない。小細胞肺癌の顕著な生物学的特徴は神経内分泌マーカーを発現することであり、神経内分泌性格と呼ばれるが、神経内分泌性格が発癌過程でいかに獲得され、悪性化に寄与するのかは明らかになっていない。我々は、小細胞肺癌77検体のエクソームデータを解析し、下垂体前葉の発生過程を制御する転写因子の下流遺伝子に体細胞突然変異が有意に蓄積することを発見した。体細胞突然変異を起こしたDNA鎖が転写の鋳型鎖であるか、非鋳型鎖であるかにより変異の頻度が異なることから、これら下流遺伝子は小細胞肺癌の発癌過程において転写活性化することが示唆された。さらに、77検体を下垂体前葉の発生過程に則して5つのクラスに層別化したところ、小細胞肺癌の予後と有意に相関した。これらの結果は小細胞肺癌が個体発生における下垂体前葉の分化経路を利用して、神経内分泌性格を獲得する可能性を示す。また、これら4転写因子の機能を調べるため、小細胞肺癌細胞株SBC3を用いてCRISPR/CAS9システムによる4転写因子のノックアウトを試みた。最適なエレクトロポレーションの条件を調べるため、Neon system を用いて、GFP発現プラスミドを24条件でエレクトロポレーションした。その結果、SBC3細胞ではパルス電圧1300 V,パルス時間 20 ms, パルス回数2回の時に細胞生存率及びトランスフェクション効率が90%以上となり、最適であった。4転写因子のコード配列を標的にしたgRNAを設計し、in vitro 転写により合成したのち、CAS9タンパク質と共に上記の条件でエレクトロポレーションした。72時間後に限界希釈し、96 well plateに播種、シングルコロニーを増殖させ、最終的に56株を得た。
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