本研究は、急性腎障害に対して保護的に働く腸内細菌叢をオミクス技術をもちいた網羅的遺伝子解析を用い明らかにすることを目的とする。近年、腸内細菌叢が生体の恒常性維持に重要な役割を担っており、さらに腸管保護作用も報告され注目されている。しかし遠隔臓器である腎臓に対しての保護作用については明らかとされていない。そこで、腸内細菌叢関連因子が急性腎障害に対して保護的に働くと仮説を立て、腸内細菌叢移植技術を用いて腎・腸連関機序の解明を目指す。この腎・腸連関を解明することは、腸内細菌叢の変化を反映する新規の急性腎臓病に対するバイオマーカー開発や治療法開発などの臨床応用に向けた基盤となり、将来臨床への波及効果も期待される。 最終年度では、無菌マウスに腸内細菌移植を移植することにより、急性腎障害が移植していない無菌マウスより改善することを明らかとした。この結果から、腎臓と腸内細菌叢は密接に関連することを証明した。また、急性腎障害で変化する細菌群も同定し、腎臓病に対する新規バイオマーカー候補として検討を進めている。さらに、腎臓と腸管を具体的に繋ぐ臓器間ネットワーク因子も同定した。メタボローム解析により、腎臓病に連関して動く数種類のキラルアミノ酸を発見した。 上記研究成果は、マウスだけではなく、ヒト慢性腎臓病患者の腸内細菌叢、代謝産物中でも確認しており、論文作成、特許申請を進め、将来の臨床応用を目指している。
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