研究実績の概要 |
現在までに、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から胎生期の腎前駆細胞を分化誘導し、それらの前駆細胞から糸球体や尿細管様構造などの腎組織を作製する複数の報告がなされている。しかし、腎前駆細胞の分化誘導法はそれぞれの報告で大きく異なっており、ヒト胚発生を模倣しているにもかかわらず、異なる条件でもヒトiPS細胞から腎前駆細胞を作製できる原因は未だ説明できていない。そこで、ヒトiPS細胞からの分化誘導における最初の処理がそれぞれの報告で異なっていることに着目し、ヒトiPS細胞の性質もしくは最初のステップで作製される前駆細胞の違いに、前述の原因を解明する手掛かりがあるのではないかと考えた。 腎前駆細胞は、HOX遺伝子を発現する後期原始線条から派生することが報告されている。そこで、原始線条の形成は増殖因子であるNodal/activin, Bmp(bone morphogenetic protein; 骨形成因子), Fgf(fibroblast growth factor; 線維芽細胞増殖因子)およびWntの濃度、組み合わせ、タイミング、処理期間を検討することで、ヒトiPS細胞から高効率にHOX遺伝子陽性の後期原始線条を分化誘導する方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎臓は中間中胚葉から派生する尿管芽と後腎間葉の相互作用によって形成されるが、尿管芽は前方中間中胚葉、後腎間葉は後方中間中胚葉から派生すると考えられている(Taguchi A., 2014)。そこで、前方中間中胚葉領域はHoxb4によって規定されていることに着目し、ヒトiPS細胞からHOXB4を発現する原始線条の作製を試みた。ヒトiPS細胞由来の初期原始線条細胞はactivin A処理で内胚葉に分化するため、内胚葉への分化を抑制することで、HOXB4発現が誘導されることを見出した。そして、内胚葉への分化抑制と後期原始線条の誘導因子であるCHIR99021を組み合わせることで、初期原始線条からHOXB4陽性後期原始線条細胞を高効率に作製することに成功した。 次に、HOXB4陽性後期原始線条から前方中間中胚葉への分化誘導法の開発を行った。マウス胚発生において沿軸中胚葉、側板中胚葉でレチノイン酸が合成されること(Aulehla A., 2010)、胚の背腹軸はFgf, Nodal, Bmpの濃度勾配によって規定されること(Takasato M., 2015)に着目し、レチノイン酸とFGF8の組み合わせ処理を施すことによって、PAX2, LHX1陽性の前方中間中胚葉を作製することができた。 以上、ヒトiPS細胞からHOXB4陽性原始線条細胞を分化誘導し、前方中間中胚葉を作製することができたことにより、平成27年度の研究計画を達成できたと考える。
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