研究実績の概要 |
現在までに、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から胎生期の腎前駆細胞を分化誘導し、それらの前駆細胞から糸球体や尿細管様構造などの腎組織を作製する複数の報告がなされている。しかし、ヒト胚発生を模倣しているにもかかわらず、腎前駆細胞の分化誘導法はそれぞれの報告で大きく異なっており、その原因は未だ説明できていない。そこで、ヒトiPS細胞からの分化誘導における最初の処理がそれぞれの報告で異なっていることに着目し、ヒトiPS細胞の性質もしくは最初のステップで作製される前駆細胞の違いに、前述の原因を解明する手掛かりがあるのではないかと考えた。 腎前駆細胞は、HOX遺伝子を発現する後期原始線条から派生することが報告されている。また、原始線条細胞は前後軸に沿ってどの位置に存在するのかによって、その後にどのような細胞種に分化するのか運命付けられていることも知られている。そして、胚発生において原始線条の形成は、増殖因子であるNodal/Activin, Bmp(bone morphogenetic protein; 骨形成因子), Fgf(fibroblast growth factor; 線維芽細胞増殖因子)およびWntによって促進され、それらの濃度勾配によって前後軸が決定されている。そこで、それらの因子の濃度、組み合わせ、タイミング、処理期間を検討したところ、FGF2とWntシグナルのアゴニストであるCHIR99021を高濃度で用いることにより、ヒトiPS細胞からHOX遺伝子陽性の後期原始線条を分化誘導することができた。そして、作製した後期原始線条細胞は、レチノイン酸とFGF2で処理することにより、腎臓が派生する胎生組織である中間中胚葉に分化することが分かった。今後は、中間中胚葉が尿管芽および後腎間葉へと分化する発生生物学的機能を有するか否かを検証する。
|