【背景】Kruppel-like factor 5 (KLF5) は細胞増殖や血管新生を調節する転写因子であり、Transforming growth factor β (TGF-β) やplatelet-derived growth factor Aなどの様々な成長因子の発現を調節する。合成レチノイン酸αの特異的アゴニストであるAm80はKLF5の発現を抑制する。今回我々は、マウス腹膜線維症モデルでのKLF5の発現を調べ、Am80投与による腹膜線維化抑制効果について検討した。 【方法】chlorhexidine gluconatge (CG) の腹腔内投与により腹膜線維症モデルマウスを作成した。CG開始と同時にAm80の経口投与を連日行った。投与開始3週間後に、腹膜平衡試験を行い、腹膜組織を採取してKLF5やcollagen III、TGF-β、α-smooth muscle actin (α-SMA) など線維化に関与する因子の発現を免疫組織化学で評価した。 【結果】正常マウスの腹膜組織ではKLF5の発現を認めなかった。CG投与群では肥厚した腹膜中皮下組織でKLF5の発現が亢進した。Am80投与により、KLF5の発現が減少し、腹膜肥厚とcollagen IIIの発現が、CG群と比べて有意に抑制された。TGF-β陽性細胞数やα-SMA陽性細胞数、浸潤マクロファージは、CG投与群と比較してAm80投与群で有意に減少した。腹膜平衡試験では、CG投与群で腹膜透過性が亢進し、Am80投与群では腹膜透過性亢進が有意に改善した。 【結論】以上より、腹膜線維症モデルにおけるKLF5の関与が示唆された。Am80はKLF5の発現抑制を介して腹膜線維化の抑制に有用な可能性がある。
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