研究課題
平成27年度はセリンプロテアーゼ(SP)がメタボリックシンドローム(Mets)に伴う腎障害進展に果たす役割の検討を行った。以前の検討でSP阻害薬であるメシル酸カモスタット(CM)がMetsモデルによる糸球体上皮細胞のアポトーシスを抑制し、尿蛋白を改善させていたため、さらなるアポトーシスのメカニズムについて検討した。高塩食で悪化した活性化Caspase-3の上昇をCMは有意に抑制した。そのcascadeの上流にあるSPであるOMI/htra2について検討した。in vitroの系でOMI/HTRA2の基質と反応させる実験でCMはOMI/HTRA2を抑制しなかった。その上流のBAX、BCL-2をWestern blottingで確認すると、CMは高塩食で悪化したBax/Bcl-2比を改善させた。5/6腎摘モデルにおけるSP群の同定を行った。まず、5/6腎摘モデルラットにおけるCMの尿蛋白減少効果を確認した。サンプルを組織でPAS染色し、糸球体をレーザーマイクロダイセクションで単離した。得られた蛋白質をトリプシンで溶解し、HPLCでにかけてMS/MS解析を行った。解析で得られた蛋白には顕著に障害により変化する物質は認めず、得られた蛋白にSPはなかった。今後、サンプルの増量、血清のMS/MS解析でさらなる検討を行っていく。以上のことよりCMのSP阻害によりBax/Bcl-2に作用し、Caspase3の活性化を阻害、アポトーシスを抑制し、尿蛋白を改善させていることが分かった。SPの同定には至っておらず、次年度に同定を行い、in vivo、in vitroの実験でカスケードを明らかにしていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
Mets腎障害におけるSPの関与の検討についておおむね当初の計画通りに進んでおり、SPの同定に関してもMS/MSの解析の条件の検討を行っており、おおむね順調に進展している。in vivoの実験ではアポトーシのカスケードにおいてBax/Bcl-2比を増加させるSPをCMが阻害することで改善していることが確認された。さらにその下流にあるCaspase-3の活性化がCMで抑制されていることが確認された。Mets腎障害では糸球体上皮細胞に何らかのSPが作用し、Bax/Bcl-2比を増加させ、アポトーシスを誘導していることを示唆していた。5/6腎摘ラットを作成し、そのサンプルによりはっきりとしたSPは同定できていないが、すでにさらなる解析を始めている状況であり、おおむね計画通りに進んでいるといえる。次年度では同定出来次第、同定したSPを用いて当初の計画のin vivo、in vitro実験により解析を行っていく予定である。
当初の28年度の計画では5/6腎摘ラットにおける同定したSPの特異的阻害薬による細胞内シグナルの検討、同定SPのノックアウトマウスの解析、Mets腎障害modelにおける同定SPの役割の検討、糸球体上皮細胞に同定SPの投与による細胞内シグナルの検討を行う予定であった。SPの同定が出来ておらず、同定したいSPが微量な可能性を考慮し解析するサンプルの増量、また、血中のSPである可能性を考慮し血清をMS/MS解析していく予定である。同定後、同定したSPのノックアウトマウスの入手、もしくは作成を行う。並行して5/6腎摘モデルラットを再作成し、同定したSPの特異的阻害薬の投与実験を行う予定である。それで明らかになったカスケードをもとにMets腎障害のモデルで細胞シグナルの解析を行う予定である。また、ノックアウトマウスで尿蛋白モデルによる糸球体障害を検討していく。また、in vitroの系でもSP投与による上皮細胞の細胞障害を検討していく。これらの実験により尿蛋白に関わるSPを明らかにし、新たな治療法の開発へとつなげる予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件)
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