研究実績の概要 |
慢性腎臓病は心血管病と末期腎不全の2つの発症リスクを有しているが,古典的な降圧剤や脂質代謝改善薬が両リスクの軽減に対する有効性は乏しい.分子機序に立脚した新規治療法が期待されているが,われわれは血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーの1つである胎盤増殖因子(PlGF)が基礎的かつ臨床的に動脈硬化疾患に関与することを証明してきた(Kidney int. 2014, J Am Soc Nephrol. 2015). 本研究の目的は慢性腎臓病における心血管疾患あるいは末期腎不全発症の新規バイオマーカーとしての血中PlGF濃度の有益性を証明し,PlGFアンタゴニストの投与が心血管疾患かつ腎硬化症の治療薬としての臨床応用に道筋を立てることを目的としている.維持透析患者205名の検討では,血中PlGF濃度は総死亡,心血管疾患に対する独立した危険因子であり,VEGFよりも予測因子として優れていた.さらに,年齢,血清アルブミン,冠動脈疾患の既往,脳性利尿ペプチド(BNP)にPlGFを加えたモデルではイベントの予測診断能がC統計で0.795と著明に向上した.この研究成果は既に論文化している(Am J Nephrol. 42: 117-125, 2015).また,40名の腹膜透析患者の検討では,血中PlGF濃度は腹膜機能と有意な正の相関を示し,腹膜透析の離脱ならびに心血管イベントの予測に優れていることを公表した(Cardiorenal Med. 6: 251-259, 2016).
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