研究課題
サルコペニアは身体能力低下を伴う筋肉量の減少と定義され、運動不足や加齢に伴いサルコペニアが進行すると、肥満・糖尿病などの生活習慣病ならびに心血管病の発症・進展につながるため、サルコペニアの予防ならびにその改善の重要性が、内科領域において注目されてきた。申請者のグループでは昨年度までの検討で、慢性腎不全(CKD)に伴うサルコペニアの発症機構を解析し、CKDに伴うサルコペニアにおいては、筋肉量の減少が明らかとなるよりも早期の段階から、骨格筋のミトコンドリア量が減少すること(マイトペニア)を見出した。そこで腎不全患者の身体能力改善には、ミトコンドリア活性化が有用であると着想し、本年度の検討では、骨格筋における酸素利用促進作用が最近報告された消化管ホルモンであるグレリンを、CKDモデルマウスである5/6腎摘マウスに投与して、サルコペニアの改善を検討した。サルコペニア治療における有用性が示された代表的なホルモンである、Insulin like growth factor-1 (IGF-1)の投与によるサルコペニアの改善も、同時に検討した。1か月間のグレリン投与(0.1nmol/gBWを週3回腹腔内投与)により、5/6腎摘マウスのミトコンドリア量と筋肉量が増加し、筋力と持久力が有意に改善した。骨格筋におけるミトコンドリア生合成促進分子であるPGC-1αの発現は、5/6腎摘にてプロモーター領域のメチル化亢進を介して低下したが、グレリン投与によりそのメチル化レベルが低下し、PGC-1αの発現が回復した。一方、IGF-1の投与では、筋肉量は増加したものの、PGC-1αの遺伝子発現とミトコンドリア量は回復せず、持久力の改善も不十分であった。これらの結果よりグレリンは、筋肉量とミトコンドリア量の双方を増やすことで、CKDに伴うサルコペニアを効率よく改善すると示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題に沿った検討で、CKDにおけるサルコペニアに対するグレリン投与の有用性を明らかにした。
今回の検討により、CKDにおけるサルコペニアの治療に、骨格筋ミトコンドリアを活性化する薬剤が有用と示唆された。今後も動物モデルを用いて、骨格筋ミトコンドリア活性化に基づくサルコペニア治療の開発を推進し、十分なデータが得られた後にヒトでの臨床応用に着手する予定である。
直接経費の端数にて10円の未使用金が発生した。
当初計画通り消耗品の購入等に使用予定。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Endocrinology
巻: 156 ページ: 3638-3648
10.1210/en.2015-1353