本研究では多くの神経変性疾患に共通する特徴である異常タンパク質の蓄積とそれに伴う神経細胞の機能低下を改善する治療を目指し、遺伝性神経変性疾患の一つである球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の動物モデルと培養細胞モデルに免疫抑制剤として使用されるタクロリムスとその誘導体を投与し、その効果を生化学的解析、病理学的解析などにより検討した。 SBMAの原因である異常伸長したポリグルタミン鎖を持つヒト全長アンドロゲン受容体(AR)を導入した培養細胞モデルを使用し、細胞生存率の解析を行った結果、薬剤投与による有意な改善が見られた。また薬剤投与による神経突起の伸長効果も確認でき、薬剤の細胞保護効果が示唆された。またウェスタンブロット、real-time PCR、免疫組織化学などを用いた解析により薬剤投与による変異ARタンパク質の発現低下とタンパク質品質管理機構に関わる分子の発現増加を確認した。薬剤の効果と変異タンパク質の挙動を明らかにするために変異AR及びタンパク質品質管理機構に関わる分子に蛍光タンパク質を付加し、蛍光タイムラプス顕微鏡により解析した。薬剤投与により変異ARタンパク質の凝集が抑制され、タンパク質品質管理機構に関わるいくつかの分子の賦活化が見られた。 ヒト全長AR遺伝子を発現するSBMAモデルマウスに対し薬剤を長期間投与し、マウスの表現型を体重変化、生存率、Grip、Rotarod法を用いて解析した結果、すべての解析で表現型の改善が見られた。また今回の長期間投与による副作用と考えられる所見は認められなかった。培養細胞と同じくSBMAマウスの脊髄、骨格筋においても薬剤投与による変異ARタンパク質の発現低下が確認された。薬剤の詳細な作用機序の解明と変異タンパク質分解経路の特定が今後の課題である。
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