以前、私たちは多発性硬化症などの中枢神経系脱髄疾患の病理組織の検討で、病巣においてコネキシン(Cx)蛋白が広範に脱落していることを見出した。この変化がみられる人では疾患活動性が高く巨大病巣を形成していることから、このCx蛋白発現低下は中枢神経系脱髄疾患の病変形成・拡大に寄与すると考えた。 本研究では、そのCx蛋白(特にアストロサイトのCx43)発現抑制機序についてマウス培養細胞を用いて明らかにした。初年度、炎症性サイトカインのうちインターフェロン(IFN)γがミクログリアを活性化し、この活性化ミクログリアが産生するインターロイキン(IL)-1βなどの炎症性サイトカインがアストロサイトに作用し、Cx43の発現を減少させることを示した。最終年度は、実際に多発性硬化症で病態に深く関与すると考えられているT細胞が実際にアストロサイトのCx43を減少させるのかを検証するため、マウス脾臓細胞からナイーブCD4+ T細胞を分離し、1型ヘルパーT (Th1)細胞、Th17細胞、制御性T細胞を誘導した。そのうちIFNγを産生するTh1細胞のみがアストロサイトのCx43発現を低下させることが示された。また実際にCxの発現変化が多発性硬化症の病態を悪化させるのか、Cx43のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、多発性硬化症の実験モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎を誘導し、病態がどう変化するかについては、現在検証中である。 以上より、多発性硬化症において中枢神経系に浸潤するTh1細胞が産生するIFNγがミクログリアを活性化し、IL-1βなどの炎症性サイトカインを産生し、それがアストロサイトに作用しCx43発現を減少させることを解明した。Cx蛋白の脱落は細胞間のシグナル伝達をつかさどるギャップ結合の破綻を招き、グリア間で維持されているホメオスターシスを障害し、病態を増悪させると考えられる。
|