てんかん患者の多くは、発作間欠期に認知機能障害を呈し、生活の質の低下や就労能力の低下を招く。近年の機能的MRI(fMRI)研究で、様々なてんかん症候群において、認知機能に関わる大域ネットワークの機能的結合性が低下し、認知機能障害の程度と相関することが明らかになった。特に、記憶や自己認識に関わるデフォルト・モード・ネットワーク(default mode network; DMN)は、様々なてんかん症候群で共通して機能的結合性が低下する。しかし、何故てんかんで大域ネットワークの機能的結合性が低下するのか、その原因は不明である。私たちは、DMNの慢性的な興奮性の増大が、機能的結合性低下の原因であるという仮説を立て、研究を行った。てんかん焦点切除術前の頭蓋内脳波を解析すると、DMNの一部がてんかん発作の焦点となっている患者では、焦点から離れたDMN領域でも、てんかん発作の起始時や、発作間欠期にてんかん性の高周波振動(high frequency oscillation; HFO)が認められることが明らかになった。HFOは病的な興奮性増大を反映していると考えられており、これらの患者は、DMN全体として易興奮性を獲得していると考えられた。そこで、DMN領域の安静時機能的結合性を算出し、他のてんかん患者と比較した。しかし、予想に反して、DMNの易興奮性を有する患者とそれ以外の患者では、機能的結合性に有意な差は認められなかった。また、より間接的な興奮性の指標やモデル動物を用いた検討でも、DMNの易興奮性と機能的結合性の関連性は明確ではなかった。
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