肥満治療において食事療法は有効だが、患者のコンプライアンスの低さが問題となる。その解決には、恒常的摂食代謝調節研究に加え、過食の背景にある食嗜好性の解明が重要である。SIRT1は、カロリー制限という食事療法の一種による健康寿命の延長効果を担う分子の一つである。視床下部SIRT1は、レプチンなどのホルモン感受性を促進し、恒常的摂食代謝調節により体重を負に制御することがわかっている。他方、食嗜好性へのSIRT1の関与は未解明である。そこで私は、神経系特異的SIRT1過剰発現 (NS-OE)・ノックアウト (NS-KO) マウスを作成し食嗜好性に対する解析を行った。その結果、SIRT1はショ糖嗜好性を抑制、脂質嗜好性を促進することを見出した。また、オキシトシン(Oxt)はショ糖嗜好性を抑制するが、NS-OEマウスで低下したショ糖摂取量は、中枢移行性Oxt受容体阻害剤の投与で回復した。次に、NS-OE/KOマウスの視床下部のOxt発現解析と、視床下部細胞株でのOxt発現とプロモーター解析より、SIRT1はOxt発現を正に制御することを確認した。さらに、Oxtニューロン特異的SIRT1過剰発現・ノックアウトマウスを作成・解析し、ショ糖嗜好性の抑制にはOxtニューロンのSIRT1で十分であり、かつOxt受容体を介したシグナルが必要であることも確認した。 ショ糖摂取は肝臓からのFGF21分泌を促進し、視床下部室傍核のFGF21受容体(β-Klotho/FGFR1ヘテロダイマー)に作用してショ糖摂取を抑制する。我々は、FGF21が視床下部細胞株でOxt発現を促進し、SIRT1はβ-Klotho発現を正に制御することを見出した。 以上より、SIRT1はFGF21-Oxt系を介してショ糖嗜好性を制御することが明らかとなった。他方、SIRT1による脂質嗜好性制御機構の解明は今後の課題である。
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