研究課題/領域番号 |
15K19505
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 高則 東京大学, 医学部附属病院, 研究員 (50749257)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インスリン受容体基質 / 成長障害 |
研究実績の概要 |
我々は既にNestin Cre マウスを用いて中枢でIRS-1 遺伝子の発現が欠損しているモデルマウス(脳特異的IRS-1 欠損マウス)を作成済みであり、本マウスがCre 蛋白を発現していないコントロールマウス(IRS-1 flox マウス)と比較し全長が小さく低体重であり、また血中GH濃度が低値であることより成長障害を認めることを明らかにしており、その詳細なメカニズムの検討を進めた。まずGH分泌障害を生じる本マウスに関して、他の下垂体ホルモン及びその下流のホルモン分泌の評価を行った。その結果、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やプロラクチン(PRL)の血中濃度には差を認めず、また甲状腺刺激ホルモン(TSH)の刺激で分泌されるトリヨードサイロニン(T3)やサイロキシン(T4)の血中濃度、雄において黄体形成ホルモン(LH)刺激で分泌されるテストステロンの血中濃度にも差は認められなかった。これらの結果及び下垂体ではIRS-1 の発現が欠損していないことから、我々は本マウスのGH分泌障害の原因が下垂体より上流の視床下部にあるのではないかと考え、脳特異的IRS-1 欠損マウスの視床下部mRNAの抽出を行い、視床下部においてGH分泌に促進的に働く成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)及び抑制的に働くソマトスタチン(STT)の発現の確認を行ったところ、SSTの発現レベルはIRS-1 flox マウスと脳特異的IRS-1 欠損マウスでほぼ同程度であった一方、GHRHの発現レベルは脳特異的IRS-1 欠損マウスで低い傾向にあることを確認した。これらの結果は中枢でのIRS-1が視床下部のGHRHニューロンに作用し成長に影響を及ぼしている可能性を示唆するものであり、現在さらに詳細なメカニズムの検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年Cre loxP システムを用いて臓器特異的ノックアウトマウスを作製するにあたり、標的遺伝子とは関連のないoff target な影響が注目されてきている。特に中枢神経特異的な遺伝子改変動物においてはその影響が指摘されており、実際我々が用いているNestin Cre マウス(中枢神経に選択性の高い発現を誘導するNestin 遺伝子の制御下にCre 蛋白を発現するマウス)においてもNestin Cre マウスそのものに表現型があることが報告された(PLoS One 10,2015)。これらのことから我々の研究においても脳特異的IRS-1 欠損マウスの表現型についてNestin Cre のoff target な影響を除外する必要があると考え、我々はコントロールマウスとして今まで用いていたIRS-1 flox マウスに加えて、当初予定していなかったNestin Cre マウス(Nestin 遺伝子の制御下にCre 蛋白を発現するがflox 配列を挿入していないマウス)の作成を現在行っており、今後これらのマウスを用いて解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
動物実験においては脳特異的IRS-1 欠損マウスの解析にあたりNestin Cre のoff target な影響を除外する必要があり、そのために現在Nestin Cre マウス(Nestin 遺伝子の制御下にCre 蛋白を発現するがflox 配列を挿入していないマウス)を作製中である。今後コントロールマウスとしてNestin Cre マウスを用い、再度脳特異的IRS-1 欠損マウスの表現型の解析を行う予定である。また、成長障害の詳細なメカニズムを解明する目的で、組織学的な解析(GHRH産生ニューロンの構造的異常(数や大きさなど)の有無など)を行うことも検討している。また、長期的には高齢マウスの解析や寿命の検討なども行っていきたいと考えている。 細胞実験では、現在マウス視床下部神経細胞株を用いて検討を進めている。使用する細胞株においては、インスリンシグナルに関与する分子(インスリン受容体、IGF-1受容体、IRS-1、IRS-2、Aktなど)及びGHRHが発現していることを既に確認しており、今後視床下部神経細胞株においてIRS-1 をノックダウンした系を用いIRS-1 の視床下部ニューロンにおける作用の解析を行っていく。
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