今回我々は中枢神経に選択性の高い発現を誘導するNestin 遺伝子の制御下にCre 蛋白を発現するマウス(Nestin Cre マウス)を用いて、中枢でインスリン受容体基質(IRS)-1 遺伝子の発現が欠損しているモデルマウス(脳特異的IRS-1 欠損マウス)を作製し、その解析を行うことで中枢におけるIRS-1の役割の解析を行った。 また今回の研究では、脳特異的IRS-1 欠損マウスの表現型の解析に当たり、Nestin Cre のoff target な影響を除外する必要があると考え、対照マウスとしてはNestin Cre マウスを用いた。 その結果、脳特異的IRS-1 欠損マウスは対照マウスであるNestin Cre マウスより全長や体重が小さく、また骨長や骨密度も低値であり、さらに血中IGF-1濃度やGH濃度も低値であり成長障害を呈していることを明らかとした。一方で副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やプロラクチン(PRL)の血中濃度には差を認めず、また甲状腺刺激ホルモン(TSH)の刺激で分泌されるトリヨードサイロニン(T3)やサイロキシン(T4)の血中濃度にも差を認めず、GHRP-2負荷後の血中GH濃度は両者で同程度であったことから、成長障害の責任臓器は下垂体ではなく、視床下部と考えた。そこで視床下部においてGH分泌に促進的に働く成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)及び抑制的に働くソマトスタチン(STT)の発現の確認を行ったところ、脳特異的IRS-1欠損マウスではGHRHの発現のみ有意に減少していた。さらに視床下部神経細胞株を用いた検討では、IRS-1をノックダウンするとニューロンの増殖が抑制されることも明らかとした。 以上の結果から、中枢においてIRS-1はGHRHニューロンの増殖に関与し、成長に重要な役割を担っていることを明らかにすることができた。
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