前年度に引き続き、糖尿病性腎症における糸球体上皮細胞障害に対するオートファジー・リソソーム系の関与について検討を行った。リソソームの転写活性化因子であるTFEBの過剰発現ベクター並びに恒常的核内移行型TFEBベクターおよび恒常的核内非移行型TFEBベクターを作製し、培養糸球体上皮細胞に発現させて各種刺激に対する反応を検証した。TFEBの過剰発現によりリソソーム膜蛋白の一つであるLAMP1の発現が増加すること、リソソーム染色による細胞内染色量の増加から、TFEBの過剰発現によりリソソームの生合成が亢進することを確認した。さらに恒常的核内移行型TFEBおよび恒常的核内非移行型TFEBの過剰発現細胞の比較検討によりTFEBの核内移行がmTORC1依存的リン酸化部位のリン酸化の有無により調節されていることを確認した。また、培養糸球体上皮細胞に対するベクター発現をより安定化させるために、レトロウイルスを用いて薬剤誘導性TFEB過剰発現細胞株を作製した。この細胞を用いて上記のことを再度確認し、さらに糖尿病刺激として高血糖および高脂肪酸刺激を行いこれらに対する反応を検討した。その結果、TFEB過剰発現細胞において、対照細胞株に比べ脂肪酸刺激による細胞死が抑制されることを明らかとした。さらに、恒常的核内移行型TFEBと恒常的核内非移行型TFEBとの過剰発現株の比較において、前者では後者に比し脂肪酸刺激による細胞死が抑制されていることを明らかにした。これらの結果から、mTORC1依存的リン酸化部位変異型TFEBはmTOCR1のリン酸化を受けることなく核内に移行することが可能であり、これによってリソソームの転写活性を亢進させ、糖尿病状態における各種細胞毒性刺激に対し細胞死を抑制させることが明らかとなった。
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