研究課題
褐色脂肪組織(Brown adipose tissue; BAT)は、エネルギー消費を促進することにより糖・脂質代謝を制御する臓器として注目されている。テトラヒドロビオプテリン(BH4)は、eNOSやチロシン水酸化酵素などカテコラミン合成の補酵素として作用する。我々は、BH4による褐色脂肪分化および糖・エネルギー代謝制御機構を明らかにするために、BH4合成量が低下しているhph-1 mutantマウスを用いた検討を行った。hph-1 mutantマウスに高脂肪食を負荷すると、コントロールマウスに比べ顕著な体重増加が誘発された。このマウスは、血糖値の上昇、耐糖能障害およびインスリン抵抗性を認めた。さらに、このマウスでは直腸温の低下を認め、食事誘導性の熱産生の低下を認めた。光学顕微鏡ではBAT内の脂肪滴の増加を認め、電子顕微鏡ではミトコンドリア濃度の減少および形態異常を認めた。hph-1 mutantマウスではBATのUCP1, PGC1a, Dio2の遺伝子発現レベルの低下を認めた。これらの所見により、BH4が欠乏すると褐色脂肪機能が低下することが確認された。hph-1 mutantマウスでは、各臓器においてノルエピネフリンおよびnitric oxide(NO)量の低下が確認された。次に、我々はBH4が褐色脂肪細胞の直接的な刺激作用を有しているかどうかについて検討した。マウス由来の褐色脂肪細胞を用いた実験において、BH4の直接曝露はBAT関連遺伝子のうちUCP1,PGC1a,Dio2の活性化作用を認め、UCP1の蛋白発現の増加を認めた。生理学的な検討において、BH4は酸素消費速度(OCR:Oxygen Consumption Rate)、プロトンリークの増加を認めた。BH4を曝露すると褐色脂肪細胞においてNO産生の増加を認めた。NOS阻害薬投与下では、これらの作用は消失しており、BH4はeNOSによるNO産生を介したBATの直接刺激作用を有することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
BH4の直接作用について、単離した褐色脂肪細胞を用いた酸素消費速度の測定により生理的に証明することができた。Nitric oxide(NO)を介した作用機序の解明など、研究課題の進展がみられた。
モデル動物や単離褐色脂肪細胞を用いることにより、BH4による褐色脂肪脂肪の分化・増殖機序についてさらに詳細を検討する。褐色脂肪組織機能の活性化を介した糖尿病・肥満への治療効果についての評価を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Biochem Biophys Res Commun.
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