研究課題
本研究課題では、「小胞体」という新しい視点から褐色脂肪細胞の分化・成熟、活性化機構の分子メカニズムを解明することを目的としている。今年度は、小胞体から発信される褐色脂肪細胞活性化シグナルを解明した。褐色脂肪細胞は寒冷暴露やβ3アドレナリン受容体アゴニストCL 316,243刺激によってUCP1の発現量が増加し、熱産生機能を亢進する。この時のUPR関連遺伝子の発現量や活性化レベルを解析すると、IRE1α-XBP1経路の特異的な活性化が検出された。次にIRE1α-XBP1経路の必要性についてIRE1αヌクレアーゼドメイン機能を阻害する化合物4μ8Cを用いて調べた。4μ8Cを褐色脂肪細胞に処理すると、Xbp1 mRNAのスプライシングと共に、CL 316,243刺激によるUcp1の転写誘導が有意に抑制された。しかし、小胞体ストレス誘導剤ツニカマイシンを処理するとXbp1 mRNAがスプライシングされるにも関わらず、Ucp1の転写は誘導されなかった。これより、小胞体ストレス非依存的なIRE1α-XBP1経路の活性化機構が推察された。ノルアドレナリンを受容すると褐色脂肪細胞内ではPKAが活性化する。PKAをH89により阻害するとUcp1の転写誘導とIRE1α-XBP1経路の活性化が共に有意に抑制された。一方、PKAの下流分子であるp38 MAPKをSB 203580で阻害するとUcp1の転写誘導は抑制されたが、IRE1α-XBP1経路は活性化していた。以上より、IRE1α-XBP1経路はUcp1転写の新規誘導経路であり、PKA依存的に活性化していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に計画していた「小胞体から発信される褐色脂肪細胞活性化シグナルの解明」についてIRE1α-XBP1経路がUCP1の転写誘導において重要なシグナル伝達経路であること、IRE1αの活性化はPKAによって行われていることを解明した。また、これらの知見を論文にまとめ、発表することができた。これらの理由により、上記区分に該当すると判断した。
今後は、本研究課題のもう一つのサブテーマである「褐色脂肪細胞分化におけるBBF2H7の役割」をメインに進める。前年度の解析から、BBF2H7の作用ポイントやノックアウトマウスの詳細な表現型が明らかになりつつあるので、このまま計画通りに進める。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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http://www. hiroshima-u.ac.jp/top/koho_press/press/h2701-12/p_yi1ol3.html