研究実績の概要 |
脂肪は細胞膜の欠かせない要素として、また、皮膚の下で体温を維持するだけでなく、エネルギーを保存する役割を担う。脂肪量の不均衡は、肥満や脂肪異栄養症等を介して代謝恒常性の不均衡を誘導し、代謝性疾患を誘導する。 NPYは飢餓状態で増加し、食欲を促進するホルモンで、本グループでNPYの欠損は、自由摂食させたメスマウスでは中年期に増加する脂肪量を減少させる肯定的な影響を与えるが、CRマウスにとってNPYは必須な要素である。 特に、食餌制限(CR)マウスにおけるNeuropeptide Y(NPY)の欠損は体脂肪を減少させ、死亡率を高めると報告した(Chiba T, Sci. Rep., 2014)。こうした現象は脂肪分解阻害剤、Acipimox(ACM)投与によって抑制された。CRマウスは、主に脂肪代謝でエネルギーバランスを維持することから、NPYが脂肪代謝のバランスに及ぼす影響を調べ、脂肪代謝での新しい抗老化メカニズムのネットワークを構築するのが本研究の目的である。 ACMはcAMP-PKA経路を介してhormone sensitive lipase(HSL)の活性を抑制する。これはGaiカップル受容体であるNPY受容体の経路と繋がるためACMがNPYの経路を活性化させる可能性が示唆される。これを明確にするために、マウスの脂肪組織で、脂肪の形成と脂肪分解に関連する遺伝子およびタンパク質の発現レベルを確認した。まず、脂肪の形成関連遺伝子(C/EBPα, PPARγ2, FAS, ACC1)の発現レベルはCRによって増加したが、NPY欠損及び、ACM投与による変化は見られなかった。しかし、脂肪分解に重要なタンパク質、HSLの活性化がコントロールのCRマウスと比較して、NPY欠損されたCRマウスでは増加し、ACM投与によって減少した。この結果からCRマウスでのNPY欠損における体脂肪の減少原因は過度な脂肪分解にあることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
過度な脂肪分解作用による脂肪代謝不均衡でのNPYとACMの効果を検討するために脂肪分解を促進する aP2-HSLトランスジェニックマウスを導入し、 NPY([Leu3l,Pro34]NPY、週2回、i.p.)及び0.1%ACM(水入り)を6ヶ月間処理しながら摂食量、体重、体脂肪量の変化、血液でのグルコース・インシュリン・レプチンレベルを測定する。 脂肪分解促進に伴う白色・褐色脂肪の代謝異常がACMやNPY処理によって回復されるのかを調べるためにマウスの各グループの白色・褐色脂肪からmRNA・タンパク質を分離して、脂肪の形成(PPARγ2、FABP4、DGAT1)と脂肪分解(p-CREB(Ser133)、p-HSL(563、660)、ATGL、CGI-58)に関連する遺伝子およびタンパク質の発現レベル、そして熱発生に関連する遺伝子(UCP1, PGC1a, Cidea等)の mRNA発現レベルを確認する。 ACMが 脂肪代謝にどのような分子メカニズムを介してNPY-/--CRマウスの死亡率および体脂肪の減少を抑制するかを調べるために、3T3-L1脂肪細胞でNPY(100nM)とACM(10mM)を処理した後、cAMP-PKA-HSL経路を活性化させるかを検討する。脂肪分解が進むと脂肪酸の酸化が促進される。そこで、XFe Analyzerを使ってNPYやACMを処理後脂肪細胞でのミトコンドリアの呼吸・解糖作用(OCR-酸素消費率、ECAR-細胞外酸性化率)を分析する。 脂肪組織は、CRマウスに必須なエネルギー源であって、老化や寿命にも密接な関連性がある。CRマウスにおけるNPYの欠損は体脂肪減少を起こし、死亡率を増加させCRによる寿命延長効果を抑制する点で、NPYはCRマウスに重要な遺伝子であることには間違いない。したがって、DNAマイクロアレイを介して、NPYの脂肪代謝メカニズムを中心とした遺伝子ネットワークを分析する予定である。
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