研究課題
2型糖尿病の発症には、インスリン抵抗性に対する膵β細胞の代償性過形成が不十分となることが重要と考えられている。インスリン抵抗性改善薬であるメトホルミンは、主に肝臓、脂肪組織、骨格筋に作用し、血糖降下作用を発揮するが、膵β細胞に及ぼす影響は明らかではない。メトホルミンの膵β細胞機能・量の制御機構を解明することが目的である。高脂肪食負荷マウスにメトホルミンを投与した結果、8週負荷時には、メトホルミン投与群でインスリン抵抗性の改善、膵β細胞代償性過形成が抑制されていたが、60週負荷時には、インスリン抵抗性の改善は継続されていたものの、膵β細胞の増大は抑制されていなかった。そのため、短期間(1週間)の高脂肪食負荷にて検討したところ、インスリン抵抗性は惹起されていないにもかかわらず、メトホルミン投与群では膵β細胞増殖が抑制され、膵島における遺伝子発現変化でも細胞周期関連遺伝子の発現が抑制されていた。以上の結果から、メトホルミンは、インスリン抵抗性に関与せず、増殖を抑制している可能性が示唆された。また、膵β細胞不全への進展因子として重要な小胞体ストレス誘導性のアポトーシスに関するメトホルミンの影響を検討した。メトホルミンは、単離膵島において、高血糖下およびタプシガルギン誘導性アポトーシスを有意に抑制した。さらに、メトホルミンが膵島中心壊死に及ぼす影響を検討した。膵島移植の生着率向上のためには、膵島中心壊死を制御することが重要であり、単離膵島において、サイズが大きい膵島では中心部が虚血に陥りやすく、中心壊死がおこることがしられている。単離膵島において、メトホルミンを添加すると、高血糖下の中心壊死の割合を有意に抑制した。また、AMPK作動薬であるAICARもメトホルミン同様に中心壊死を抑制した。以上の結果から、メトホルミンは、膵β細胞において直接的な保護作用を有している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
メトホルミンの高脂肪食誘導性膵β細胞増殖および、小胞体ストレス誘導性アポトーシス、中心壊死に関して、保護的に作用する可能性について国内の学会で報告している
平成27年度の研究結果をもとに、高脂肪食誘導性の膵β細胞増殖に対する影響、および小胞体ストレス誘導性アポトーシス抑制メカニズムに関して、詳細な分子機序の解明をめざす。また、膵島移植への治療応用の可能性を考慮し、移植治療をこころみる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Diabetol Metab Syndr
巻: 8 ページ: 16
doi: 10.1186/s13098-016-0138-4.
Eur J Pharmacol
巻: 5 ページ: 22
10.1016/j.ejphar.2015.12.043