本研究では、キヌレン酸代謝と糖代謝制御との関連を明らかにすることを目的とする。 これまでの検討によって、キヌレン酸合成酵素KAT-1のノックアウトマウス(KAT-1KOマウス)では、キヌレン酸含量の低下を認めた。KAT-1KOマウスは耐糖能の悪化とインスリン抵抗性を示しており、これらことからキヌレン酸含量が耐糖能に影響を及ぼす可能性が確認できた。 今年度は、キヌレニン代謝に関わるkynurenine monooxygenase (KMO)を標的として、キヌレン酸代謝が糖代謝の制御に及ぼす影響を検討した。KMOはキヌレニンからの3-Hydroxykinurenine(3-HK)合成を触媒する酵素である。KMOを標的としてshRNA発現アデノウィルスを作製し、C57BL/6Jマウスの肝臓に感染させたところ、肝KMOタンパクの発現抑制が確認された。さらに、KMOの肝特異的な発現抑制は、肝臓において本酵素の生成物である3-HK含量の有意な減少が認められる一方、キヌレン酸含量は有意に増加していた。さらに高脂肪食負荷をおこなった食事誘発性の肥満モデルマウス(DIOマウス)で肝KMOの発現抑制実験を行った。その結果、肝KMOの発現抑制により、DIOマウスでも肝キヌレン酸含量の増加が確認され、さらに糖負荷試験の結果、耐糖能の有意な改善が認められた。インスリン負荷試験・ピルビン酸負荷試験を行うと、KMOの発現抑制群は対照群に比べて血糖値の有意な低下を認めた。これらのことから耐糖能の改善はインスリン感受性の亢進と糖新生経路の抑制による可能性が考えられた。今年度の検討より、キヌレン酸合成系の亢進が糖代謝を改善させる可能性が示された。
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