研究課題/領域番号 |
15K19529
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊東 伸朗 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10731862)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リン / FGF23 / 骨 / ビタミンD / カルシウム / 受容体 / くる病 / 骨軟化症 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体がどのような機構を介して血中のリン濃度を感知しコントロールしているのかを明らかにしようとしている。これまでの研究で骨細胞の一部が産生するFGF23が血中リン濃度を調整する内分泌因子であることが明らかにされているため、本研究ではFGF23を産生する細胞が特異的に発現している膜タンパクや細胞質内タンパクを同定することでリン感知機構に関わるタンパクを探索していこうと試みている。通常の骨組織は様々な種類の細胞が混在しており、FGF23を産生している骨細胞は全体のごく一部であるため本研究のための試料としては不適と考え、腫瘍性骨軟化症を惹起するFGF23を過剰産生する骨、軟部組織腫瘍検体を用いて検討を進めている。 2015年度には別々の症例から得られた3つのFGF23産生腫瘍検体を用いてRNAseqを施行したが、本腫瘍検体に特異的に発現しているタンパクの同定には至っていない。しかしながらそれぞれの腫瘍組織に対して、高リン刺激を行ったところ、培養液中のFGF23濃度の増加反応を認めたことからFGF23産生腫瘍がリン感知機構を有しているというより強い確証を得た。 これまでの当研究室、他の研究室の検討結果から、FGF23産生腫瘍においても正常骨細胞と同様にその一部の細胞においてのみFGF23が産生されていることが、免疫染色により証明されている。そこで2016年度には既にFGF23産生と関係があると目されているタンパク(PHEX,DMP1,ENPP1など)が実際にFGF23産生細胞において特異的に発現しているかを免疫染色によって改めて検討したい。また免疫染色においてFGF23産生細胞が特異的に発現している膜タンパクを探索し、同タンパクを利用したをFACSにてFGF23産生細胞をソーティングすることで、FGF23産生細胞が特異的に発現するタンパクをさらに同定していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
FGF23産生腫瘍により惹起される腫瘍性骨軟化症は、日本国内で100~500症例と目されており非常に稀であるものの、当院にて2015年度に新たに3例の手術症例があり本検討のための試料を得ることが出来た。RNAseqにより本腫瘍特異的に発現しているタンパクを同定することでリン感知に関わるタンパクを探索する試みであったが、3検体で施行されたRNAseqでは特異的な発現タンパクを同定できておらず、検討が先に進められていない。 腫瘍細胞の中でもFGF23を産生している細胞はその一部であることが免疫染色で明らかになっており、腫瘍細胞の中でさらにFGF23産生細胞と非産生細胞をソーティングして検討する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本検討は血中リン濃度の調整液性因子であるFGF23を産生する細胞において、他にどのような特異的なタンパクが発現しているかを解析することで、血中リン濃度の感知やFGF23の産生調節に関わるタンパクを同定することを目的としている。しかしこれまでのFGF23産生腫瘍を用いたRNAseqによる検討では、FGF23産生腫瘍に特異的に発現するタンパクを同定できていない。 免疫染色ではFGF23産生腫瘍の細胞集団のなかでも一部のみがFGF23を産生しており、またマウスにおける検討では生理的にFGF23を産生している正常骨のなかの骨細胞でも、FGF23を産生しているの一部である。また原因は明らかではないがヒトの骨組織では骨細胞におけるFGF23がこれまでに免疫染色で示されたという報告がない。 そこで今後は近年商業的に活用されているより高感度な免疫染色法を用いて、FGF23産生腫瘍や通常骨組織中の骨細胞でFGF23を産生している細胞の局在などの特徴を病理組織学的に明らかにしたい。また既に血中リン濃度やFGF23産生の調整に影響をもつことが既に判明しているタンパク(PHEX,DMP1,ENPP1など)を産生している細胞と、FGF23を産生している細胞の局在関係を免疫染色にて明らかとしたい。また同手法にてFGF23産生細胞で特異的に発現している膜タンパクが同定されれば、FACSを用いて、FGF23産生腫瘍や、正常骨細胞からFGF23細胞をソーティングし、改めてRNAseqでその特異的発現タンパクを同定していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本検討は、FGF23産生腫瘍において特異的に発現しているタンパクを、RNAseqを利用して同定することで血中リン濃度感知、FGF23産生調節に関わるタンパクを同定することを目的としている。本来RNAseqで同定し得たタンパクを、培養細胞に過剰発現するなどしてin vitroのタンパクの機能解析実験を行う予定であったが、これまでの腫瘍3検体の検討ではRNAseqではFGF23産生腫瘍における他の特異的タンパクの同定に至っていない。FGF23産生腫瘍のなかでもFGF23産生細胞がその一部であることが原因であると思われる。このため実験計画に遅れが生じ次年度使用額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
FGF23産生腫瘍中の細胞や正常骨組織中の骨細胞における、FGF23産生細胞と非FGF23産生細胞をさらに分離したうえで改めてRNAseqでその分子学的特徴の相違を検討したい。現行の方法ではヒトの正常骨組織ではFGF23産生が免疫染色で証明されていない。まずはFGF23産生腫瘍と正常骨組織においてのFGF23産生細胞の形態や局在を検討するため、近年商業的に活用できるようになったより高感度な免疫染色の手法を用いて、組織中のFGF23産生細胞を同定したい。また既に血中リン濃度やFGF23濃度の調節に関係することが判明しているタンパク(PHEX、DMP1、ENPP1など)の局在がFGF23産生細胞と一致するかを免疫染色を用いて検討したい。さらに免疫染色によってFGF23産生細胞特異的な膜タンパクが同定された場合には、同タンパクを用いてFGF23産生細胞をFACSでソーティングする予定である。
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