研究課題
本研究の目的は、次世代シークエンサーおよびアレイcomparative genomic hybridization(アレイCGH)を用いた思春期遅発症・思春期早発症患者の遺伝子解析により、性成熟疾患における既知遺伝子変異の寄与を明確とし、新規発症責任遺伝子を発見することである。本年度は、約70症例に関して次世代シークエンサーによる遺伝子解析を行い、約20症例に関して疾患の原因と考えられる既知原因遺伝子異常を同定した。また、アレイCGHによる染色体上の欠失・重複の有無を検討し、1症例に関して染色体異常を認めた。重要な点として以下の成果が得られた。・難聴と虹彩色素脱出を伴うKallmann 症候群(KS)より、Waardenburg症候群(WS)の原因遺伝子であるSOX10 の機能喪失型変異を同定した。この症例に関しては、家族解析を行いde novo 変異であることを確認し、in silico 解析によって病的意義が認められた。また、ルシフェラーゼアッセイによるin vitro 実験によって、機能喪失型変異であることを確認した。・思春期早発症患者よりKS責任遺伝子であるPROKR2 の機能亢進型変異を同定した。この症例に関しては、家族解析を行い、母に同一の変異を認めた。また、共焦点顕微鏡による細胞膜への局在の観察、キットを用いたCa+ アッセイによるin vitro 実験によって、機能亢進型変異であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
約70症例に関して、次世代シークエンサー、アレイCGH を行ったところ、数多くの原因と考えられる既知原因遺伝子異常を同定した。SOX10機能喪失型変異では、難聴と虹彩色素脱出だけを伴うKSと典型的WSの両者を招くことが見出され、SOX10の機能喪失変異と内分泌疾患との関連性を明確にした。この結果に関しては、学会発表・英語論文として発表する事ができた。また、PROKR2 の機能亢進型変異では、思春期早発症を招くことが見出された。この結果に関しては、現在論文投稿中である。これらの解析によって、臨床病型にとらわれない網羅的解析が疾患成因の理解を広げる可能性があると考えられる。
平成28 年度は、昨年度に引き続き集積したゲノムDNA を対象として、次世代シークエンサーによる既知性成熟疾患原因遺伝子および候補遺伝子の変異スクリーニングを網羅的に行う。変異陰性検体については、アレイCGH 解析を行い、欠失・重複の有無を検討する。これまでに性成熟疾患との関連が知られていない遺伝子に異常が同定された場合は、家族解析、in silico 解析、in vitro 機能解析などによって病的意義の検討と遺伝子機能の解明を行う。また、変異陽性患者の遺伝子型-表現型解析、および日本人患者における変異パターンを解明する。変異陰性患者の中で特異な合併症を有する症例や家系例では、エクソーム解析を行い新規遺伝子の発見を目指す。
次世代シークエンサーによる解析が当初の予定よりも早く解析する事ができ、その分の費用を同定した変異の解析実験などに使用するため。
引き続き集積したゲノムDNA の、次世代シークエンサーによる既知性成熟疾患原因遺伝子および候補遺伝子の変異スクリーニングに使用する。また本年度の解析によって同定された変異陰性検体のin vitro 機能解析試薬に使用する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Hormone Research in Paediatrics
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Molecular Genetics and Genome Medicine
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