研究課題
本研究では、造血細胞においてこれまで精力的に解析されてきたBmi1/Pcgf4 とそのファミリー分子であるPcgf1、Pcgf3、Pcgf5 がどのような機能差異をもち、その機能差異がどのように協調しながら造血幹細胞の自己複製機構、多分化能を規定する機構を制御しているのか明らかにすることを目的としている。今年度はPcgf1、Pcgf3、Bmi1/Pcgf4、Pcgf5 遺伝子の成体造血特異的コンディショナルノックアウトマウスの表現型を解析、比較することで造血幹細胞機能におけるPcgf ファミリー分子の役割を明らかにした。まず、Pcgf1コンディショナルノックアウトマウスは造血幹細胞の分化が骨髄球系に強く偏ることから、Pcgf1は造血幹細胞の分化決定において骨髄球系分化の抑制因子として機能していることが示唆された。Pcgf3、Pcgf5のコンディショナルノックアウトマウスは造血分化に関しては目立った異常は示さなかった。一方で、Bmi1/Pcgf4のコンディショナルノックアウトマウスはこれまでの報告と同様に造血幹細胞機能不全のため、造血能全体が徐々に低下していった。赤白血病の細胞株であるMELに3xFlagタグつきの各Pcgfタンパク質を過剰発現させた細胞株を樹立し、Flag抗体を用いたCHIP-sequenceを行ったところ、Pcgf3とPcgf5の標的遺伝子はほぼPcgf1の標的遺伝子に含まれることが明らかとなった。つまり、Pcgf3とPcgf5のノックアウトマウスではPcgf1がその機能を代償するため表現型が出ないと考えられた。しかしながら、Pcgf1の表現型はBmi1/Pcgf4の過剰発現ではレスキューされないことが明らかとなり、Pcgf1とBmi1/Pcgf4は明確な機能差異があることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、Pcgfファミリー分子の各コンディショナルノックアウトマウスの解析を一通り行うことができた。さらにPcgf5コンディショナルノックアウトマウスに関してはグローバルな遺伝子発現解析(RNA-sequence)、エピゲノム解析(H2AK119ub1抗体またはH3K27me3抗体を用いたChIP-sequence)を行なった。驚いたことに、Pcgf5欠損造血細胞ではH2AK119ub1レベルは著しく低下していたものの、遺伝子発現にはあまり変化が見られなかった。この結果はPcgf5コンディショナルノックアウトマウスで造血分化に異常が見られなかったことと違わない結果と考えられた。さらにこれらの結果を論文にまとめることができた(現在、論文査読中)。
造血分化に異常を示したPcgf1とBmi1/Pcgf4のコンディショナルノックアウトマウスの造血幹細胞、前駆細胞を用いた遺伝子発現解析、エピゲノム解析を行う。その結果を比較し、それぞれの機能の相違を生み出す分子基盤を明らかにする。
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PLoS One
巻: 10 ページ: e0132041
10.1371/journal.pone.0132041
Genes Cells
巻: 20 ページ: 590-600
10.1111/gtc.12249