研究実績の概要 |
本研究では造血細胞においてこれまで精力的に解析されてきたBmi1/Pcgf4とそのファミリー分子であるPcgf1, Pcgf3, Pcgf5がどのような機能差異を持ち、その機能差異がどのように協調しながら造血幹細胞の自己複製機構、多分化能を規定する機構を制御しているのか明らかにすることを目的としている。本年度は、Pcgf5に関してH2AK119ub1修飾の制御に重要であるものの、造血細胞においてはその機能は代償され必須ではないことを報告した(Si and Nakajima-Takagi et al. Plos One 2016)。また、Pcgf1に関しては、造血幹細胞・多能性前駆細胞の分化決定において骨髄球系分化の抑制因子として機能していることが示唆されていたが、本年度は、造血細胞特異的コンディショナルノックアウトマウスにおけるこれらの細胞を用いてRNA-Seqを行い、詳しい表現型解析を試みた。その結果、骨髄球関連遺伝子群の発現が造血幹細胞・多能性前駆細胞において異所性に活性化していること、特に顆粒球分化において重要な役割を果たすC/EBPα, C/EBPε遺伝子の発現が脱抑制していることが明らかになった。主成分分析では、Pcgf1欠損多能性前駆細胞(MPP)が骨髄球前駆細胞(GMP、PreGM)様の発現パターンを示すことが示された。さらにChIP-seqにおいて、これら骨髄球系遺伝子発現の活性化とPcgf1を含むPRC1.1の担うヒストン修飾であるH2AK119ub1レベルの減少との相関が確認され、PRC1.1がヒストン修飾を介して骨髄球系遺伝子発現の抑制に寄与していることが示唆された。一方で、Pcgf1は造血幹細胞の骨髄再構築能には寄与しておらず、Bmi1/Pcgf4とは明確な機能差異があることがあきらかになった。
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