研究課題
KAP1のチロシンリン酸化による慢性骨髄性白血病の影響を調べるため、CMLのセルラインであるK562細胞の内在性のKAP1をノックダウンした後に、KAP1を発現させるウィルスをK562細胞にインフェクションした。野生型のKAP1(KAP1-wt)、リン酸化しない変異体(KAP1-3YF)をそれぞれ発現させ、細胞への影響を調べた。まず、KAP1によって発現が影響される遺伝子群をGEOのデータベースからピックアップした。そして、CHIPの解析によってこれらの遺伝子へのKAP1-wtとKAP1-3YFの結合の変化について解析した。その結果、野生型に比較してKAP1-3YF変異体では転写を制御する部位への結合が強いことがわかった。また、定量的q-PCRの結果からこれらの遺伝子の発現はKAP1-3YFの発現セルラインでは低いことがわかった。これらのことから、想定した仮説の通り、KAP1のクロマチンへの結合制御が慢性骨髄性白血病の細胞において、転写の制御に関わっていることが示唆された。さらに、in vivoでの解析も行なった。KAP1のコンディショショナルノックアウトマウスを入手した。このマウスから造血幹細胞を分取し、KAP1-wt, KAP1-3YFを発現させて、in vivoのモデルでのKAP1のチロシンリン酸化を介した造血細胞の運命決定制御への影響を解析している。今後はBCR-ABLのノックインマウスも作製したため、慢性骨髄性白血病のin vivoでの影響も解析していく。
2: おおむね順調に進展している
KAP1チロシンリン酸化による正常な造血細胞での機能解析については、KAP1コンディショナルノックアウトマウスの造血幹細胞に、KAP1-wtまたはKAP1-3YF変異体をそれぞれインフェクションし、致死量放射線照射したレシピエントマウスに移植する。その後、これらのマウスの末梢血や骨髄細胞を採取し、造血の表現系解析を行なうことを計画していた。そして、計画通りにコンディショナルノックアウトマウスを入手し、造血幹細胞を致死量放射線照射したレシピエントマウスに移植開始することが出来た。また、KAP1チロシンリン酸化による造血器腫瘍発症の分子基盤の解明については、K562細胞にKAP1-wtまたはKAP1-3YF をそれぞれインフェクションし、これらの細胞の遺伝子発現を比較する。病態解析については、BCR-Ablトランスジェニックマウスの造血幹細胞に、KAP1-wt、KAP1-3YF変異体をそれぞれインフェクションし、致死量放射線照射したレシピエントマウスに移植することを計画していた。そして計画どおりに、BCR-Ablの発現マウスを入手することができた。セルラインについても樹立に成功し、発現量の解析を行なうことが出来た。
今後は今年度に作製することが出来たin vivoの系をさらに何度か行なうことことで、より確かな結果を得ていくことを目標としている。実験系の作製に関しては研究室全体で取り組んでおり、すでにいくつかの先行している結果も出ているため、十分に実験結果を得ることが出来ると考えている。また、in vivoの系を確立している間に in vitroの系で様々な結果を得ることに成功したため、2年目には特にin vivoの系に取り組むことが出来る。また、in vivoの系で上手く実験することが出来ない場合には in vitroの系を用いて解析することが出来るように準備をすることが出来た。そのため、2年目以降さらに多くの実験結果を得ていくことが出来ると考えている。
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